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再び内部被ばくが増えているウクライナ汚染地帯

経済悪化と国際支援引き揚げで、可能な対策が実行されない理不尽

高橋真理子 朝日新聞 科学コーディネーター

 ウクライナ生物資源・環境利用大学のニコライ・ラーザレフ教授が、日本のNPO法人「食品と暮らしの安全基金」(小若順一代表)の招きで来日し、チェルノブイリ原発事故で汚染されたウクライナの村々で、いったん下がった内部被ばくレベルが再び上昇している現状を報告した。事故に対する国際的な支援が途切れてきたために放射線低減対策がとれなくなり、村民の関心も薄れて汚染度の高いキノコやベリー類をかまわず食べるようになったためらしい。日本では、牛乳の放射性セシウムの基準値を1キログラム当たり50ベクレル以下と決めている。「支援をしてくれる日本の皆さんには話しにくいが、汚染地域の子どもたちは今も1000ベクレル以上のミルクを飲んでいる」。

拡大講演するニコライ・ラーザレフ教授=2016年6月29日、関西学院大学 東京丸の内キャンパス
 「安全基金」は、ウクライナの社会団体「希望」(代表は地方議員で看護師のタチアナ・アンドロシェンコさん)と共同で、2012年から子どもたちの健康を良くするプロジェクトを始めた。放射能汚染のない場所に子どもたちを送り込む「保養」事業や、汚染されていない牛乳や肉の提供、キノコやベリー類を食べないように呼びかけるといった活動を学校(1年生から11年生までいる)を拠点に展開。これまでウクライナ北部の汚染地域の10の学校を回った。

 このプロジェクトで放射線量や内部被ばく量の測定を担当する専門家が、農業放射線学研究所副所長も務めるラーザレフ教授だ。6月下旬に来日し、5カ所で講演した。私はその一つ、29日に東京で開かれたサイエンス映像学会月例研究会に参加し、プロジェクトの実施で子どもたちの内部被ばくが確実に下がったデータを知るとともに、ベラルーシとウクライナで放射線対策に大きな差が出てきていることに衝撃を受けた。

 チェルノブイリ原発事故が起きたとき、ソ連政府が事故をひた隠しにしたことは良く知られている。その後、ソビエト連邦は崩壊、高濃度汚染地はロシア、ベラルーシ、ウクライナの3つの国にまたがることになった。

 私は2012年8月にウクライナにあるチェルノブイリ原発とその周辺の取材に行き、WEBRONZAに報告を書いた(『チェルノブイリ原発に観光コースができていた』『汚染地域の26年間』『除染と移住政策の現実』『内部被曝問題をチェルノブイリで考える』)。そのとき、ベラルーシは社会主義国の道を歩み、ウクライナは資本主義国となったことを両国の首都の風景から強烈に印象づけられた。ベラルーシの首都ミンスクの夜は暗く、ウクライナの首都キエフの夜はネオンが無秩序にけばけばしく光り輝いていたからだ。

 ウクライナでは2005年に親欧米派のユーシェンコ大統領が誕生し、EUや米国と関係を強化しようとした。が、そのためにロシアから安価なガスを供給してもらえなくなり、経済が悪化。2010年には親ロ派のヤヌコービッチ氏が大統領となったものの、国内で大規模な民主化デモが発生、2014年には治安部隊などがデモ参加者を銃撃、多数の死者が出た。この騒乱の中でヤヌコービッチ大統領は逃亡。その後、ロシアがクリミア半島を併合、ウクライナ東部は内戦状態となり、経済はさらに悪くなっている。

 ラーザレフ教授によると、原発事故後10年ほどは国際的な援助が盛んで、 ・・・ログインして読む
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筆者

高橋真理子

高橋真理子(たかはし・まりこ) 朝日新聞 科学コーディネーター

朝日新聞 科学コーディネーター。1979年朝日新聞入社、「科学朝日」編集部員や論説委員(科学技術、医療担当)、科学部次長、科学エディター(部長)などを務める。著書に『重力波 発見!』『最新 子宮頸がん予防――ワクチンと検診の正しい受け方』、共著書に『村山さん、宇宙はどこまでわかったんですか?』『独創技術たちの苦闘』『生かされなかった教訓-巨大地震が原発を襲った』など、訳書に『ノーベル賞を獲った男』(共訳)、『量子力学の基本原理 なぜ常識と相容れないのか』。

 

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