ヴォルガ川クルーズ国際会議から見えてきた現実
2016年08月09日
かつて旧ソ連時代の物理学ではランダウやゼルドビッチを代表に「超人」と呼べる人たちが活躍していた。私は学生時代から彼らの教科書をよく利用して親しんでいる。そんなソ連邦が崩壊したのは1991年のクリスマス。その2週間後に、私は新生ロシアを訪問した。核兵器を設計・製造していた機密研究所(Cheliyabinsk-70:いわゆる「地図にない街」)で開催された初の国際会議に招待され、米・英・仏の8名と共に外国人として初めて足を踏み込んだのだ。招待の理由は、当時の私の研究が水爆の平和利用(レーザー核融合)であったことにある(私の当時の記事[1])。
その後6回のロシア訪問を経て、今回は7月16~23日と1週間のヴォルガ川クルーズ国際会議「非線形物理の最前線」に参加してきた。超新星理論の友人から招待講演を依頼されてのことだ。ロシア科学アカデミー(RAS)主催で、4階建ての客船で旅をしながら、世界の研究者と交流するのが主目的である。24年前の新生ロシア一番乗りから今回で通算7回の訪問をもとに、ロシア科学の状況と研究者の実態について書いてみたい。
このような豪華客船の会議は、ロシア側に利点があってのことだ。例えば、①会議運営が簡便、②研究者家族の夏休みを兼ねた公務になる、③米国などに移住した研究者の帰省機会となる、④海外に行けない多くの研究者が世界の最新研究を聞ける、⑤都市での開催に比べ安全を確保しやすい、⑥国外参加者の高額参加費でロシア人の経費を補助できる、など。このスタイルは2000年頃からよく行われている。
ロシア側の参加者は多くが定年を過ぎた研究者だ。ロシアは老人天国。年金生活になっても研究所を出ない。結果、私の友人は学生と狭い部屋を共有している。非線形プラズマ物理で有名なZ教授は、訥々としゃべり今にも心臓発作で倒れそうなのに、時間超過を気にせず自説を披露し続けた。しかし、彼らの堪能な英語には驚く。24年前とは大違い。米国や欧州、日本など西側に客員教授などで滞在し、英語に慣れ親しんできたようだ。
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