「いいものは高い」の米国だからこその高額化、それによる貧富の格差拡大の現実
2016年08月15日
アメリカの大統領選挙で、バーニー・サンダース(Bernie Sanders)候補が公立大学の学費(授業料、tuition)ゼロと学資ローンの金利引き下げを政策にかかげて話題になった。
アメリカの大学のほとんどは、コミュニティカレッジ(community college)といわれる日本の短大のようなもので、マサチューセッツ工科大(MIT)やスタンフォード大学のようなトップレベルの有名大学とは大きく異なる。コミュニティカレッジは公立(州立)で、ここで学んでいる学生が多いので、この授業料をゼロにすることができれば、その影響は大きいが、州立大学の学費はもともと私立大学の半分くらいである。一方、日本人が知っているような有名大学はカリフォルニア大学などを除くとほとんどが私立なので、実は、サンダース氏の学費ゼロ政策は、これらの大学の高額学費の問題とは直接関係がない。今回は、この高額学費問題の実情を述べてみたい。
アメリカの私立大学の学費は、2000年以降、物価や収入の伸びを上回って上昇しており、確かに高い(年額500万円~700万円)。しかし、大学は学生一人当たり800~1000万円くらい教育コストをかけている。また、年収が6万ドル(600万円くらい)以下の家庭からの学生の学費は無料になっている。このため、例えばMITが実際に受け取っている学費総計は、コストの半分くらいに過ぎない。不足分は同窓会(卒業生)や企業からの寄付や資産(基金)運用で賄っている。大学は、学生まで動員して卒業生に電話攻勢させるなど、極めて日常的かつ積極的に寄付集めをしている。
資産運用は学校経営の要ともいうべき重要なものとして位置づけられている。学費に頼らない経営、奨学金の拡充は、大学の教育機関としての権威を保ち、学生の意欲を高めている。アメリカでは、毎年のグラント(研究のための外部資金)を除く支出が、保有資産(基金+現金)の5%を上回らないことが、大学運営の長期的な健全性を見る一つの指標と認識されている。
日本では、公益団体などは資産を「安全に運用する」ことが求められているが、欧米では、投資することは、むしろ義務であると考えられている。ただ、その際に、慎重投資原則(prudent investor rule)に則った投資でなければならない。何もせずに預金するだけのインフレに弱い運用は、この原則に反し、違法とされる可能性さえあると言われる。公益法人・団体が、その基金の投資・運用の職責を外部の業者に委託することは、法律的に認められており、むしろ推奨されている。
基本的には、運用資産の分散化(株式、債券、現金、オルタナティブ、国債など)により、全体のリスクを減らし、長期的に高いリターンを得ている。筆者が学長を務めているTTICはシカゴ大学と連携しているが、そのシカゴ大学の投資部門は特に評判が高く、リーマンショックを含む期間でも、5年以上で平均すれば高いリターンを実現している。それを支えているのは、投資部門に優秀な人を抱えていることと、その人達の人的コミュニケーションネットワークと、それによるビッグデータ(情報)である。
アメリカの大学全体について基金の変動を見ると、
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください