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放射線の単位「シーベルト」の取り扱い方

「受けた放射線の影響の度合いを表す単位」という説明は誤りなのか

高橋真理子 ジャーナリスト、元朝日新聞科学コーディネーター

 福島支援を続けている放射線安全の専門家、多田順一郎さんのインタビュー(WEBRONZA2016年6月1日)で出た「文科省が出している放射線教育の副読本に、シーベルトを『受けた放射線の影響の度合いを表す単位』だと誤った説明を書いているのは、大変困ったことだと思っています」という発言が気になっている。朝日新聞も同様の説明を書いてきたからだ。説明のされ方を改めて調べ、他の専門家にも意見を聞いてみた。

 まず、朝日新聞紙上での説明を見てみよう。2011年8月6日付「週末be」の「ののちゃんのDO科学」で、藤原先生はののちゃんの質問に以下のように答えている。

 「ベクレルは、土や食べ物などに含まれている放射性物質が、放射線を出す能力(放射能)を表すときに使われる単位よ」 「(シーベルトは)放射線が人体に及ぼす影響を示す単位ね」

2011年8月6日付「ののちゃんのDO科学」に添えられたイラスト
 このQ&Aは、放射線医学総合研究所野島久美恵室長の協力を得て作られている。

 2011年6月19日付グローブ「放射線、リスクを読み解く」では、「電球に例えると、光が放射線で、電球が放射性物質。電球が光を出す力の強さを表す『ワット』が放射能の単位『ベクレル』にあたる。人が放射線を浴びて受ける影響を表す単位『シーベルト』は、電球で言うと人が感じる明るさの単位『ルクス』にあたる。農産物などの汚染の場合、放射性物質の種類によって異なる係数をかけるなどしてベクレルをシーベルトに換算し、人体への影響を考える」とある。

 この電球の例えは、朝日新聞紙上に限らずあちこちで見かけた。ワット数の高い電球でも、遠く離れれば離れるほど暗く見えるのと同じように、放射性物質があっても離れれば離れるほど浴びる放射線は減るとイメージしやすいからだろう。

 日本原子力研究所が2011年4月18日に出した説明資料には

「シーベルト」というのは、放射線の量をあらわす単位です(※正確には、人体などが放射線のエネルギーを吸収したことによって受ける影響の度合いをあらわしますが、放射線の量と考えていただいて差し支えありません)。

とある。

 放射線医学総合研究所のサイトを覗くと、「シーベルトという単位を使う数量はいろいろありますが、共通しているのは放射線の人体への影響の大きさを考慮した数量ということです」という説明が出てくる。

 ここでは、「影響の大きさを考慮した数量」となっていて、「影響の度合いを表す」とは確かにニュアンスが違ってくる。しかし、「考慮した数量」とは、はっきり言ってわかりにくい。書く側は「考慮した」と「表した」の違いがわかっているのだろうが、読む側は同じこととしか受け止められないだろう。

 結局、最小限の文字数でシーベルトを説明しようとすれば、「ののちゃんのDO科学」の藤原先生のように「放射線が人体に及ぼす影響を示す単位」となるのではないだろうか。

 大分県立看護科学大学の甲斐倫明教授は、その説明で誤りとは言えないという意見だった。しかし、シーベルトの値を「厳密に影響を見積もった数値」と受け止めるのは「誤解」で、そこに問題があるという。

 なぜ「誤解」なのか。

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