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英国EU離脱に対する欧州科学者の本音

欧州大型装置科学への英国の発言権は後退せざるを得ない

高部英明 ドイツ・ヘルムホルツ研究機構上席研究員、大阪大学名誉教授

 私が阪大大学院の学生だったころ、英国から若手研究者が1年間滞在し、離日の際に書いた報告書が物議を醸した。体験を通して日本の研究は「watch and copy」と結論していたのだ。なかなか手厳しい。しかし、同時に驚いたのは日本で購入したマツダのロータリー車をわざわざ船便で英国に持ち帰ったことだ。英国人は現実主義である。

 その数年後、パリで1カ月間の研究作業会があり、英国人教授と通勤の電車で毎日向かい合わせだった。その時の印象は「一度に10人と話しているよう」だった。教養豊かで専門外の話題に富み、何を聞いても答えてくれる。英国紳士の神髄が深く心に刻まれた。

 研究の世界を通していろいろ思い出のある英国が、EU離脱を決めた(WEBRONZA「英国EU離脱とドイツ理想主義」参照)。英国人への率直な印象とドイツに住んで聞こえてくることを紹介したい。

英国と大陸欧州

 EUの母体が1951年に6カ国で発足した時、英国は懐疑的であった。しかし、独仏の牽引で経済面での成果が顕著になり、英国は60年代から加盟申請をした。が、仏の大統領ド・ゴールが「最初に汗をかかず、うまくいきそうになるや参加とは虫が良すぎる」と断固反対した。彼が1972年に引退し、73年にようやく加盟が承認された。

 この英国の体質は私の専門分野の英国人教授のそれと似ている。彼は傲岸無恥、自分の話だけして日本人の話は聞かない。しかし、私がドイツに移住したと知ると「貴方は仲間だ。招待するから来てくれ」と豹変した。

 ほかにも、国際会議で質問した際「あなたの英語はよく分からないので答えようがない」と皆の前で恥をかかせてくれたのも英国人だ。ドイツ人に対しても同じような答弁をしたと知らされた。

 サッチャーがEU予算分担の削減を言い出した時、ローマの友人は「英国は言いたい放題。ローマ帝国の軍隊がブリテン島に上陸した時、彼らの先祖は顔に入れ墨をした野蛮人だったのに」と憤慨していた。

 英国人と付き合って30年以上になるが、彼らの印象は「慇懃無礼。金を出さず、口は出す」。もちろん紳士的な友人も多いが、無礼さが目立つ。「大英帝国の威光を背景に、上から目線」と理解している。

EU科学プロジェクトと英国研究者

図1:EU予算の総額約16兆円と内訳(2013年)。加盟28カ国がGDPの約1%を供出して歳入とする。各種インフラ整備やEU内ネット形成などを予算化。未来の欧州合衆国への統合化・東西格差是正など戦略的に支出されている。
 EUは加盟28カ国が国力に応じて拠出する財源で予算を組んでいる。図1のように
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