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18年ぶりに国連麻薬特別総会が開かれたわけ

麻薬との戦い方に、世界が一致するコンセンサスはなくなった

高橋真理子 ジャーナリスト、元朝日新聞科学コーディネーター

国連麻薬特別総会(公式ツイッターより)
 今年4月、18年ぶりに国連麻薬特別総会が開かれた。麻薬類の所持、使用はほとんどの国で禁止されており、死刑を科す国も少なくない。しかし、こうした政策をいくらやっても麻薬犯罪は撲滅できなかったとの反省が広がり、使用者の健康被害を少しでも減らすために手を差し伸べる「ハームリダクション(害の軽減)」という手法が非政府組織(NGO)の働きかけで少しずつ広がってきた。国連総会では、各国政府の政策をそちらに180度転換しようというところまでのコンセンサスは得られなかったが、「かつては厳罰主義で一致していた。一致しなかったのは一歩前進」と、政策転換を求めてきたグループは評価する。

麻薬所持で死刑になる国々

 国連と麻薬の関係は深い。麻薬の害から人々を守るには国際協力が不可欠と、麻薬統制の権限を国連に与える条約ができたのが1961年だ。1971年に覚醒剤を含む向精神薬も統制対象に加える条約ができ、どの国も国連が規定する薬物(ドラッグ)の栽培、生産、販売、所持、使用などを禁止・規制する法制度を整えてきた。

 1988年、不正取引防止のための国際連合条約が新たに採択された。マフィアなどによる不正取引が後を絶たなかったため、マフィアと戦う「武器」を整えようとしたものだ。違反者への処罰を強化し、いわゆる「泳がし捜査」を可能にし、麻薬犯罪で稼いだ財産は没収できるようにする、といった法整備を各国政府が進めた。こうして国連主導の厳罰主義体制が整った。サミットなどでは「不正取引摘発に国際協力を進めていこう」と繰り返し宣言された。

 シンガポールでは麻薬密輸が死刑になることは日本でもよく知られているが、インドネシアを含むイスラム各国も薬物犯罪に重い刑を科している。そうした国々は、重い刑を科せば麻薬犯罪はなくなると考えてきた。ところが、イランの検察当局が最近、「死刑は薬物犯罪の抑制に効果がない」とする報告書をまとめた(朝日新聞2016年8月29日)。

 イランでは覚醒剤やコカインを30グラム以上所持していると死刑となる。その結果、イランの死刑執行数は飛び抜けて多い。イラン政府は死刑の件数や罪名を公表していないが、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルによると、年間約千人の死刑を執行している。やはり非公表で数千人とされる中国の死刑執行に次ぐ多さだという。

 それにも関わらず、イラン東部のアフガニスタン、パキスタンとの国境地帯では違法薬物が盛んに取引され、押収される違法薬物量は減る気配がない。死刑になるのは末端の売人ばかりで、麻薬犯罪組織はビクともしない。そこにイラン検察は気づいたわけである。

世界的指導者たちの異議申し立て

 薬物を持っている人や使っている人に刑事罰を科しても薬物犯罪はなくならず、厳罰主義はかえって人々の健康被害を拡大する。こうした見方を世界に示したのが、コフィー・アナン前国連事務局長ら22人の世界的指導者で構成されるNPO薬物政策国際委員会(Global Commission on Drug Policy)だ。

 2011年に出した報告書「ドラッグ戦争」で、

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