今年の予想は必ず当たる
2016年09月27日
WEBRONZA恒例(?)のノーベル賞予想のときがやってきた。今年もまた、物理学者の大栗博司さん、生命科学者の佐藤匠徳さんがそれぞれの専門分野について力のこもった予想記事を書いてくださった。明日、明後日と公開するので、どうぞお楽しみに。
と、これだけ書いて私の任務完了としたいところだが、物理学賞と医学生理学賞があるなら化学賞の予想記事も、とは編集者ならずとも誰しもが思うところだろう。実は、複数の筆者に化学賞予想記事の執筆を打診したのだが、次々と断られた。やむなく、科学3賞の中でもっとも予想が難しい化学賞(と書くのも何回目だろう)の予想に今年も私がチャレンジします。なお、ノーベル賞の発表は、医学生理学賞が10月3日(月)、物理学賞4日(火)、化学賞5日(水)である。
まず私の予想の「戦績」を振り返っておこう。1年目の2013年はノーベル賞予想の危うさを概説したあと、3賞すべてについて「日本が出している国際的な賞の受賞者から選ぶとすれば」という前提で名前を挙げた。日本国際賞、京都賞、慶応医学賞、本田賞など、日本が出している国際的な賞は多い。しかし、このときの予想がすべてはずれたところをみると、前提に妥当性がなかったのだろう。
真面目(?)に化学賞を予想した過去2回は、1回目はドンピシャリで当てることができ、2回目の昨年ははずした。
それにしても昨年の化学賞は、はずれて当然としかいいようのない結果だった。「DNA修復機構の解明」に貢献した3氏に与えられたのだが、医学生理学賞でもおかしくない業績だというのが予想困難の理由の一つ。もう一つは、3氏とも大きな国際的な賞をこれまでに受けていないという点だ。いわば、いきなりノーベル賞。そう、島津製作所の田中耕一さんタイプである。これを予想しろという方が無理だ。
生物学なのか医学なのか化学なのかはっきりしない境界領域、言い換えると昔ながらの学問領域をまたがる業績は、賞を受けにくい。これは学問世界の宿命的構造といえる。DNA修復機構の解明がきわめて重要な業績であることに疑いはなく、受賞者たちがこれまで大きな賞を受けていなかったことの方が問題だという指摘はできる。
ウィキペディアで調べてみると、昨年の受賞者は「スウェーデンの医学者」「アメリカ合衆国の生物学者」「トルコ・アメリカ国籍の生物学者」の3人。「化学者」は一人もいない。だからだろう、1774年に酸素を発見したプリーストリーを顕彰してアメリカ化学会が出す最高の栄誉「プリーストリー賞」は誰ももらっていない。それでも化学賞を授与したノーベル賞委員会を「見識が高い」と称えるべきか。うがって考えれば、だれもがDNAは安定した物質と考えていた時代に、それが不安定であること、そして損傷したDNAを修復する機構を細胞が備えていることを発見するという見事な業績を挙げた「スウェーデンの医学者」トーマス・リンダール氏が国際社会ではあまり知られていないことにスウェーデンのノーベル賞委員会が業を煮やして(?)、候補者がたくさんいる医学生理学賞ではなく化学賞授賞を決断したという推測もできる。単なる憶測だが。
さて、今年である。
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