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2016年ノーベル医学生理学賞を予測する

昨年のピンポイント予想の二人は今年のラスカー賞を受賞

佐藤匠徳 生命科学者、ERATO佐藤ライブ予測制御プロジェクト研究総括

細胞の低酸素感知・応答メカニズムの解明

 昨年、筆者はGregg L. Semenza (グレッグ・セメンザ:米国ジョンズホプキンズ大学)とPeter J. Ratcliffe(ピーター・ラトクリフ:英国オックスフォード大学)が「細胞の低酸素感知・応答メカニズムの解明」でノーベル賞を受賞すると予測した。両氏とも2015年のノーベル賞は受賞しなかったが、ノーベル医学生理学賞への登竜門といわれているラスカー賞を今年受賞した。

 筆者の予測が1年早過ぎて、両氏が今年のノーベル医学生理学賞を受賞するだろうか? 筆者は受賞の確率は高いと予測している。あるいは、もう少し広範囲の分野を対象にして、「細胞生理学」という細胞の基本的な生理機能とそのメカニズムの解明として、セメンザ、Franz-Ulrich Hartl (フランツ ウーリック・ハトゥル:ドイツマックスプランク研究所)、Arthur L. Horwich (アーサー・ホロウィッツ:米国エール大学)の3氏が受賞する可能性もある。

 「細胞の低酸素感知・応答メカニズムの解明」では、セメンザの方がラトクリフよりは先駆者であることは間違いない。また、後者2氏は、細胞内でたんぱく質が機能するために必要な立体構造を獲得するメカニズムおよびそれに失敗したたんぱく質分子がどのように排除されるかを発見した功績で2011年にラスカー賞を受賞しており、筆者も昨年のノーベル賞予測に挙げた。細胞が酸素を感知する機能も、たんぱく質の立体構造獲得およびその制御機構、それら全て細胞が正常に機能するために必須の機能だ。また、それらに異常が起こるとがんや認知症などが起こることも近年分かってきた。したがって、これらは細胞が持っている基本的な機能であり、ヒトの病気と密接に関わっている。これらの理由から、「細胞の基本的な生理機能とその制御メカニズムの解明」で、セメンザ、ハトゥル、ホロウィッツの3氏が2016年のノーベル医学生理学賞を受賞するかもしれない。

 しかし、すでに過去の予測を繰り返しても、読者側からすると読むに値しないだろうから、新たな予測をする。筆者の今年の新たな予測は

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筆者

佐藤匠徳

佐藤匠徳(さとう・なるとく) 生命科学者、ERATO佐藤ライブ予測制御プロジェクト研究総括

(株)国際電気通信基礎技術研究所(ATR)佐藤匠徳特別研究所 特別研究所長。独立行政法人 科学技術振興機構(JST)ERATO佐藤ライブ予測制御プロジェクト研究総括・米国コーネル大学教授・豪州センテナリー研究所教授(兼任)。1985年筑波大学生物学類卒業後、1988年米国ジョージタウン大学神経生物学専攻にてPh.D.取得。ハーバード大学医学部助教授、テキサス大学サウスウエスタン医科大学教授、コーネル大学医学部Joseph C. Hinsey Professorを歴任後、2009年に帰国、2014年まで奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)バイオサイエンス研究科教授。2014年7月にNAIST退職後、2014年8月1日より現職。専門は、心血管系の分子生物学、ライブ予測制御学、組織再生工学。【2017年6月WEBRONZA退任】

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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