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世界大学ランキング向上に必要なこと

海外若手ポスドクが日本の大学を救えるか

高部英明 ドイツ・ヘルムホルツ研究機構上席研究員、大阪大学名誉教授

 「グローバル化」の潮流が世界に広がる中で、日本の高等教育も「世界大学ランキング」という格付けを突きつけられている(その歴史や概要を以前の記事「大学ランキングをめぐる世界狂騒曲<>、<>」で伝えた)。文科省はランキングの向上を図るべく、「世界大学ランキングトップ100を目指す力のある」大学13校に総額500億円の資金援助を平成26年度から始めた(10年間)。いわゆるスーパーグローバル(SGU)事業である。

 私はドイツに1年前に移住し、EUというグローバル化の実験域に住み、EUの試みや現実を知るほどに「果たしてグローバル化は人類を幸せに導いてくれるのだろうか」と疑問を持つようになった。が、いったん走り出した世界的な動きは、私の疑問をよそにどんどん先に進んでいく。それなら、少しでも日本の大学のグルーバル化が望ましい方向に発展してほしいと願い、筆をとっている。

THEの挿絵では、学術という地球を人間が支えている。大学の評価は人材の評価ということか
 複数の「世界大学ランキング」で影響力の一番強い英国Times社のランク(以下、「THE」と略記)は、英語圏に有利な格付けとなっている。米・英が新自由主義という正義の名で世界標準を示し、それに追いつこうとしている構造がグローバル化である。日本の大学のTHEの格付け向上が不可欠なら、いかにして成すべきか。先日ボンで開催された日本人若手ポスドクとの交流会で考えたことを伝えたい。

世界大学ランキングを上げるには

 世界大学ランキングを上げようとすれば、英語母国語かバイリンガルな国でないと難しいことは明白だ。上位は米国・英国などアングロサクソンの大学が占めている。ドイツはほぼバイリンガルといえるほど、学生たちの英語能力は優れている。実際に彼らを指導してみて驚いた。日本の大学では学生の英語力は貧弱で、留学生が話しかけると日本人学生が逃げてしまう。

 これは英語力や会話が苦手という問題もあるが、それ以前に論理的で幅広い会話力が訓練されていないことが大きい。大学も含め日本の教育は「受け身で知識・記憶偏重」。会話を通して学ぶ能力は育成されていない。グローバル化を目指す中で、この国の教育理念が世界標準から大きくずれていることが明白になりつつある。時間をかけて初等教育から変えていくしかない。

THEの採点の配分。この中で一番大きいのは論文引用(Citations)、次が研究・教育の評判(Reputation)
 THEのランキングで10年以内に目覚ましい向上を図ろうとするなら、どのように審査されているかを知る必要がある。左図に今年の配点を示す(例年大きくは変わらない)。THEの場合、教育、研究、論文被引用の3項目が30点ずつ計90点。その評価方法は教育と研究は世界中の研究者からのアンケートによる「評判」の点数が主であり、それぞれ15、18点。被引用はデータベースから。ただし、「評判ランキング」もTHEにはあるが、これは世界中まんべんなくアンケートした「良い大学と聞いている」の人気投票であり、上記、教育・研究の「評判」と混同しないこと。

 日本の大学が「評判」や「引用」の点数を上げるには、大学人が国際的人脈を広く持ち、国際共同研究を常に実施し、世界で新しい情報発信をし続けることが求められる。

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