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ロゼッタ彗星探査機とはやぶさの共通点

ロゼッタのユニークな着陸フィナーレを見て、国民に支持される宇宙ミッションを考える

山内正敏 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

 2年前からチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の観測を続けてきた欧州宇宙機関(ESA)のロゼッタ探査計画が9月30日に終了した。探査機は彗星に着陸し電源を完全に落とした。もう復活することはない。

9月30日の着陸時、地表から20メートル地点で撮った最後の写真=欧州宇宙機関・ロゼッタORSISチーム提供(copyright ESA/Rosetta/MPS ロゼッタORSISチーム)

 ロゼッタ探査計画は、欧州では宇宙関係者だけでなく、広く一般人にも馴染まれ、2年前の調査ではドイツ人の4分の3が、フランス、イギリス、イタリアでも7割の人が知っていた。この数字は過去の欧州の宇宙計画の中では特に高く、日本における「はやぶさ」の知名度の高さを思い起こさせる。

 知名度の高さは、国民の支持のバロメータでもある。宇宙ミッションが税金で賄われている以上、これは重要なことだが、同時にポピュリズムの弊も危惧されよう。本稿ではそれらを考察したい。

宇宙探査における「世界初」の価値

ロゼッタ本体から切り離された着陸機フィラが彗星に着陸したときの想像図= ESA/ATG medialab 提供
 ロゼッタは、太陽系探査における「世界初の大きな一里塚」を達成した。2年前の『今秋の彗星は熱い』にも書いたように、探査機を彗星と同じ公転軌道に乗せるのは非常に大変で、しかもロゼッタの場合は着陸機をも積み、原子力電池なしだった。米国航空宇宙局(NASA)でさえも、彗星ランデブーを行なっていないし、その予定もないことから、その困難さが伺えよう。結果的に、欧州が「NASAですら諦めた世界の最先端のミッション」を実践したこととなって、米国にとってのアポロ計画並みのプライドを欧州が得た。これが知名度の高さの第一の理由だろう。

 同じ事情は、日本の小惑星探査機「はやぶさ」にも通ずる。小惑星表面からのサンプル採取・帰還という、太陽系探査の一里塚を、NASAが計画する前に実現したのだから、日本人が喜ぶのは当然だ。はやぶさの評判は海外でも高い。

 そのインパクトは、日本政府があっという間に「はやぶさ2」を決めたほど大きかった。他の探査機や科学衛星の順番を政府主導で飛び越した異例の展開に「全然日本的でない」とびっくりしたものだ。当時、頭越しの割り込みに戸惑ったが、結果的に「はやぶさ2」がNASAによる同様の探査機の2年も前に打ち上がったのだから、非常に納得できる流れである。

 今では、より難しいとされる火星の衛星「フォボス」からのサンプル採取・帰還(MMX)を宇宙科学研究所が2024年打ち上げに向けて進めている。「世界初の一里塚」的技術とは、そのくらいに国民の支持を受け、関係者の想像以上に技術開発が急速に進む。

ポピュリズムの弊に陥らないか?

 ただ、「国民の人気」によって長期計画が左右されることに「それでいいのか?」という疑問も出るだろう。私も多少の不安は持っている。というのも、

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