出る杭に未来を託す環境を作り、海外ポスドクに活躍の場を
2016年10月28日
日本の大学の世界ランキングをあげるには、教育・研究の「評判」向上が必要であり、そのための手段として大学は海外経験豊かな若手を戦略的に採用せよ、と前稿で提案した。では、彼・彼女らが能力を発揮できる環境が日本の大学に整っているのか、と聞かれると、私の知る範囲では答えは「否」である。本稿では、自分の体験を元にその点を掘り下げ、どうすべきかを考えたい。
元気な若者が日本の組織に入ると「出る杭は打たれる」を経験する。そして、日本の風土にふさわしい、おとなしい人間に矯正されていく。横並びの行動を求められ、「角を矯(た)めて牛を殺す」となりかねない。
その背景には、元気な新人への同僚からの「嫉妬」がある。「嫉妬」はカトリック教会では七つの大罪に上げられている「罪」である(右表)。小さいときから自立性を教育された個人主義の欧米では、嫉妬が組織をダメにすることはない。しかし、横並び文化の日本では「罪」という意識は薄く、「誰しも持つ感情」と受け止められる。だから嫉妬が人をダメにし組織の活力をそぐという認識がない。また、嫉妬を受ける側が外に飛び出せるほど、日本は職場が流動化していない。上記が日本の大学が抱えるもっとも大きな問題だと思う。
企業では組織の力は「利益」という数値で評価され、赤字になれば生き残りのため自己改革をせざるを得なくなる。ところが、大学には「黒字、赤字」という明確な指標がない。自己評価で律することが基本である。法人化後に盛んになった「外部評価」もお手盛りで、厳しい評価の話は聞かない。また、国立大学では「部局の自治」が大事にされ、人事を含め運営は部局という小さい単位で閉じている。この「部局の自治」が改革を阻む。
私は米国留学中の研究成果を2本の論文にして1983,85年と米国学術誌に掲載した。自信があったので、1985年掲載の論文で理論結果を「公式」として提案した。この公式が1990年頃から「高部の公式(Takabe formula)」と米国で呼ばれ始めた。後で米国の友人から聞いたが、米国三大研究所がスパコンで計算し、その結果が私の理論と全て一致。米国エネルギー省主催の機密会議でのことだそうだ。結果、その場で「高部の公式」という名がついた。現時点で論文の被引用は500 回を越え、Googleで”Takabe formula”で検索すると598件がヒットする。
世界中がそれを受け入れ、お陰で私は有名人となり、世界中に知人が増えた。「高部の公式」が正しいことは1996年、図1のNOVA装置によりKimBudil達が検証した(彼女は現在カリフォルニア大学の研究担当副学長)。核兵器がらみの秘密研究が多いレーザー核融合研究分野で個人名は付きにくい。だから、個人名が付いた学術用語はこれだけだ。それも日本人の名前。大学の仲間が喜んでくれるかと思ったら、だんだん反発する動きが出てきた。米国からでなく、同じ部局からである。
部局の先輩が「この公式はそれ以前の成果も考慮し、米国人の名前も入れ、Bodner-Takabeと改めるべきだ」と公に主張し始めた。国際会議で名称変更を提案し、2002年の米国物理学会で発表し、論文にもした。
同じ部局の日本人から「高部の公式」の名称に異議が出、世界は困惑した。結局、その後はだんだん「the formula」という引用になっていった。このような事態を諫めてくれる同僚も現れず、部局内は「触らぬ神にたたりなし」の雰囲気。ある友人は「男の嫉妬ですよ。日本社会では良くある」と慰めてくれたが、「嫉妬は大罪の一つである」と罪を問う動きはなかった。
「罪を裁かない大学の部局」。どうも、部局長含め上司、同僚は大なり小なり嫉妬の塊。私は
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