知っておきたい石炭ビジネスのいま
2016年11月01日
脱炭素社会への転換を求めるパリ協定が発効する。我が国がパリ協定の発効に乗り遅れたのは、化石燃料からの離脱が進む世界の潮流の速さ、強さを、日本政府が全く見誤っていたことの証左だ。
しかし、世界の動きをきちんと見ていないのは、政府だけだろうか。日本では、電力ビジネスへの参入を狙う企業などが、原発で言えば合計20基分以上にも相当する多数の石炭火力発電所の新増設を計画している。電力会社の中には、これから欧州の石炭事業の買収に乗り出そうとしているところもある。
トランプのジョーカーは、ゲームの種類によっては最強のカードなのだそうだが、エネルギービジネスの中の石炭事業はババ抜きのババになってしまう公算が極めて高い。パリ協定後のビジネスを誤らないためには、脱化石燃料、とりわけ脱石炭が急速に進む世界の動きを知っておいたほうがいい。
手前味噌と言われそうだが、自然エネルギー財団が10月下旬に公表した報告書「世界の石炭ビジネスと政策の動向」は、パリ協定後のビジネスのあり方を考えるための必読文献の一つではないかと思う。以下、そのエッセンスをご紹介する。
まず図1をご覧いただきたい。これは世界の石炭消費量の変化を示したものだ。世界の3大石炭消費大国は、中国、米国、インドで、この3国だけで世界全体の消費量の7割程度を占めている。直近の2014~15年では、インドだけは消費が増加しているが、中国が減少に転じ、米国の減少幅が大きくなっている。この結果、世界全体の消費量も減少に転じたのである。
石炭需要の減少は石炭ビジネスの収益を直撃する。中国の石炭採掘企業31社のうち14社が赤字で、中国国務院の発表によれば、石炭産業の労働者130万人が解雇もしくは配置転換される見込みだ。
図2は米国の石炭採炭企業の倒産状況を示すものだが、最大手のピーボディ・エナジー社を初め、上位5社のうち3社が2014年から2016年の間に倒産している。
石炭需要の最も大きな部分を占めるのは火力発電の燃料としての用途だが、気候変動対策の強化、自然エネルギーへの転換、そして米国ではガス発電への転換が進む中で石炭火力発電の利用は減少傾向にある。稼働率の低下とは、すなわち石炭火力発電に投資しても、発電による収入を得ることができなくなることを意味する。
今回の自然エネルギー財団の報告書は、世界各国で進む石炭火力発電所規制の動きも紹介している。2015年8月に米国政府が決定した「クリーン・パワー・プラン」は、電力部門に対し、2030年までに32%のCO₂削減(2005年基準)を求めている。8.7億トン相当のCO₂削減を実現するには、自然エネルギーの拡大や省エネの推進とともに、既存の石炭火力の大規模な閉鎖が必要とされている。
欧州各国も次々と石炭火力からの離脱を進めている。英国では、現状、電力の2割程度を賄っている石炭火力を2025年までに廃止する方針が示され、2022年までの原発廃止を決定しているドイツでも、石炭火力のフェーズアウトが議論されている。フィンランドは2020年中、デンマークが2030年までの石炭火力のフェーズアウトを掲げている。その他、ベルギー、スウェーデン、ノルウェー、オランダなどでも、石炭火力発電所は新増設されず、石炭火力からの離脱が進んでいる。
2015年に政府が策定した「エネルギー基本計画」は、石炭火力発電を「重要なベースロード電源」と位置付けた。電力ビジネスへの参入をめざす企業が、自らの電源として石炭火力の新設を計画した背景にこの方針があるとしたら、政府はビジネスに対して誤ったメッセージを出してしまったことになりそうだ。
石炭火力発電の大量の新増設計画が、気候変動対策に逆行するものであることは言うまでもないが、経営判断という点でも、
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