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続・自然エネルギー電力100%目前のコスタリカ

人権大国だから公共事業が進みにくい。だが長期展望を持ち地熱開発を推進

関根健次 ユナイテッドピープル株式会社 代表取締役社長、一般社団法人 国際平和映像祭 代表理事

 「コスタリカは環境大国ですが、人権大国でもあるんです」

 こう話すのはJICA(国際協力機構)コスタリカ支所長の半谷良三さんだ。

JICAコスタリカ支所長の半谷良三さん
 「中南米の政治亡命難民を駆け込み寺的に守ってきた。コスタリカは常備軍を持たず、OAS(米州機構)の集団的自衛権の枠組みで守られている国。人権を重んじ、個人の権利を守ってきた国なんです」

 人権を守るが故に、道路を作るために土地収用をしようとしても、土地収用のプロセス等に時間がかかり、40年前から首都サンホセの環状線道路が完成せず、大渋滞が発生しているという。

 「コスタリカ人の平均寿命は80年近くになっていますが、首都圏の通勤者は約7年間を渋滞のために費やすほど時間を浪費しており、我慢の限界に達しています。なぜこれほど人権を重んじるかというと、独裁政権が生まれないよう、権力の集中を嫌ってきた伝統があるんです。周辺国で軍事政権や左翼政権が闊歩(かっぽ)していた時代にも、コスタリカだけは見事に民主的な投票によって大統領を平和裏に決めてきた特殊な国なんです」

人権を重んじるがゆえ公共事業が進まない

 「個人が裁判所に訴えるのは自由。どんな弱い立場の個人であっても憲法違反を行った大統領に勝訴する国です。また経済的な利害関係においても同様で、かつ訴訟環境も整っています。また裁判に負けてもタダ」

 だから公共事業で、応札した業者が負けると落札の無効を訴えるという。落札後、業者となかなか契約ができないことになり、裁判が終わるまで落札業者と契約ができないので工事が開始できないそうだ。

JICAエルサルバドル事務所員の高畠千佳さん
 「要するに、個々の権利をしっかり守っていくという力が働いているんです。公と個人の人権のバランスをどうやって保っていくか、ということが、この国にとって重要なテーマなんです。バランスが崩れると、この国の重要なアイデンティティを失うことになる。ですから、円借款にしても公共事業を、このバランスの中でどう進めていくかということが課題となっています」

 実際、ミラバジェス地熱発電所の完成予定日は1990年9月で、完成したのは1994年3月だから42カ月も完成が遅れている。これほどの遅れは、想定外だったことだろう。しかし現在建設が進んでいるラス・パイラスⅡについては、遅れを見込み、十分なスケジュールの余裕を確保しているので順調に進んでいるとのことだった。人権を優先させようとするコスタリカに感心しつつも、交通網を代表としたインフラ整備が遅々として進まないという限界も知った。

 JICAコスタリカ支所で話をお聞きした後、JICAエルサルバドル事務所の高畠千佳さんから、せっかくなのでコスタリカ電力公社(ICE)を訪問しましょうと提案があり、ICEの渉外部長のマタ・モンテロさんを訪ねることとなった。

地熱をベースロード電源として活用

 2021年までに自然エネルギーでの電力供給率100%を目指すコスタリカ。去年は99%となっており、前倒しで達成する勢いだ。なかでも天候に左右されず安定的に発電できる地熱発電に力を入れている。コスタリカの電力供給を一手に引き受けるコスタリカ電力公社(ICE)の渉外部長のマタ・モンテロさんに話を伺った。

コスタリカ電力公社(ICE)
 ICEはコスタリカの電力供給を全面的に担っている1949年に設立された公的機関だ。コスタリカの建設済地熱発電所とこれから建設予定の地熱発電所は以下の通り。

【ミラバジェス地熱発電所I】55 MW
資金提供:OECF(JICAの前身)、IDB、ICE

【ミラバジェス地熱発電所II】55 MW
資金提供:IDB(米州開発銀行)ICE

【ミラバジェス地熱発電所III】27.5 MW
資金提供:ICE(BOT方式=民間会社に運営委託)

【ミラバジェス地熱発電所IV】(中断)
計画はあったもののIからIIIの蒸気量を分析したところこれ以上は無理だろうと断念。

【ミラバジェス地熱発電所V】19 MW
資金提供:ICE
ミラバジェス地熱発電所IからIIIの蒸気を地中に戻す前の熱量だけで発電している。この発電所を建設してからミラバジェス地熱帯の蒸気が減ってきたため、ここまでの建設が限界だと判断している。

【ラス・パイラスI】
発電容量:35MW
資金提供:CABEI(中米経済統合銀行)
ICEが借りている契約となっている。バイナリー技術による発電。発電にできる蒸気としては42MW。

【ラス・パイラス II】55MW(建設中)
資金提供:JICA、 IDB
設計図が出来ており、ボーリングが始まっている。

【ボリンケンI】55MW(計画中)
資金提供:JICA、IDB (関心あり)
帯水層の調査をICEが日本の企業、西日本技術開発と分析している。調査の結果次第で、ボリンケンIIを進められるか分かる。

【ボリンケンII】55MW(計画中)
資金提供:JICA、IDB (関心あり)

2016年7月の発電実績。自然エネルギーだけで発電し、内訳は水力発電74.9%、地熱発電12.9%、風力発電12.19%、太陽光発電0.01%だ
 コスタリカが地熱開発に力を注いでいる理由を、モンテロさんは発電の安定性があると語った。現在、太陽光発電の是非については非常に大きな議論になっているそうだ。太陽光発電は気象条件に依存するため、どうしても足りなくなった部分を補うためのバックアップ電源が必要になるからだ。一方で地熱発電なら年中安定して発電することができる。地熱をベースロード電源として活用しようというわけだ。

 なぜここまで地熱開発が順調に進んだかというと、ICE内に強い技術グループが存在することが、上手く開発が進んだ理由ではないかという。ICEの強みは他社に依存することなく自分たちの力で試掘を行うことができることだという。それに試掘には400万ドルから700万ドルのコストがかかるが、ICEは公社のためこのリスクが取ってこれたということだ。

政権の変化に左右されず

 日本も地熱発電のポテンシャルが高いにもかかわらず、なかなか開発が進んでいない。なぜコスタリカでは地熱発電に限らず100%自然エネルギー達成に向けてダイナミックな動きができているのか聞くと、こういう答えが返ってきた。

 「長期的な展望を持ち、その実現のために計画ができるのがコスタリカらしさなんです」

 「ICEは創立から65年経ちます。メンバーには非常にビジョンが高い人たちがいるんです。そして努力がコンスタントに続いている。政府と同じくICEの総裁も4年任期ですが、ICEの総裁はICE内部の生え抜きが総裁になります。長期計画を知っているものが総裁になるので、政権の変化に左右されにくい組織なんです。自然エネルギー100%に向かう理由は、自然を保護したい、悪影響を与えたくないという強いフィロソフィーがあるからです。化石燃料への依存は避けたいのです。」

コスタリカ電力公社(ICE) 渉外部長 マタ・モンテロさん
 期待通りといえば期待通りの反応だったが、コスタリカが長期的なビジョンを持ち、実行していくことに長けているという彼の発言は心に響いた。また、エネルギーを出来る限り環境に配慮したものを選ぶ“フィロソフィー”がある、哲学があるという言葉を使ったことも印象が強く残った。コスタリカの人々には環境保全の意識が深く根付いているということだろう。

 彼はこう最後に言い残した。

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