授業料無料、給料支給、世界中から集まる同輩や先輩たちと自己研磨
2016年11月24日
米国Foreign Affairs誌に10月31日付けでカーネギー評議会のDevin Stewart氏が書いた「Japan Gets Schooled -Why the Country's Universities Are Failing-(一からやり直せ! -何故、日本の大学はだめなのか-)」の記事を読んで、「外国人が警告している」という事実に衝撃を受けた。高等教育予算の対GDP比が米国はいうに及ばず韓国よりも低いこと、海外への留学生も海外からの留学生も他国と比べ少ないこと、そして時代遅れの教育とシステム、日本の大学のお寒い現状がこれでもかというばかりに指弾されている。
米国人から鋭い指摘を受けて情けない限りである。米国の大学と日本の大学は格差が大きすぎるので、今回はドイツの大学院の実態を紹介しながら、日本の高等教育をどう改革すべきか考えたい。
ドイツ(図1)と日本(図2)の大学の論文数ランキングを示した調査資料がある。8 分野の論文数とその合計の上位10 大学(赤)、11~20 位の大学(黄)、21~30 位の大学(水色)を色分けして示す。日本とドイツの違いが一目瞭然である。
ドイツは地方分権が大学にまで及んでおり、研究も全ての大学が自然な形で分担している。一方、日本は東大と有名校数校が飛び抜けており、中央集権的で異常だ。私は教育資源を有効活用しているドイツ型が教育には望ましいと思う。
ドイツ連邦の憲法は「教育は各州が管轄し、連邦政府は介入できない」と明記している。元々、ザクセン候、バイエルン候など独立していた諸侯が連邦政府を形作った経緯があり、連邦を形成する16州の地方分権が徹底している。従って、サッカーのブンデス・リーガ(独プロ・リーグ)応援の熱狂よろしく、地元ひいきがあらゆる分野に及び、それが良い競争心を産み、切磋琢磨して高等教育の高度化を進めている。
ドイツは元々、学部が5年であったが、世界に合わせるため、学部3年、修士2年、博士3年を目安とするように変わってきている。ドイツの大学は、高校卒業資格試験(Abitur)に合格すると、誰でも、いつでも自分の行きたい大学に進学することができる。私が住むドレスデンにはドレスデン工科大学(TUD)という文系・医学含む総合大学がある(ドイツでは歴史的理由で総合大学が工科大学の場合がある)。ドレスデンはザクセン州の州都であり、ザクセンを愛する地元からの学生が多数を占める。
ドイツでは大学に入る前に「世界を見てみたい」など1年掛けてバックパッカー旅行をしたり、ボランティアに従事したりする若者が多い。入学資格は一生有効なので、会社に就職し社会経験を積んでから大学に入る学生もいる。「人と違うこと」が大切で、「自立的人間」が求められるドイツでは、個々の人の人生も幅が広い。
大学の位置づけは、学問を学ぶ場であると同時に、自分の人生を賭しての職業を見定める場でもある。そのために、大学生の間に「インターンシップ」として半年、希望する会社や研究所で実体験する仕組みができている。学生は給料をもらいながら自分が希望していた職が想像通りだったか確かめながら進路を判断する。研究者指向なら、大型装置基礎科学なら私の務めるHelmholtz研究協会(約80研究所)、先端学術ならMax-Planck研究協会(83研究所)、応用研究ならFraunfoher研究協会(67研究所)、新分野はLeibniz研究協会(88研究所)のいずれかを選べばよい。Helmholtzでは学部学生に時間給10 ユーロ支給する。
大学院修士や博士の年限は目安であり、一般には余り気にせず、本人と指導教官が納得するまで続く。従って、修了時期はまちまちで、「3月新卒」などあり得ない(日本の常識は世界の非常識)。修士で就職する人は自分が働きたい会社をネットで調べ、随時ある求人に応募して面接を受ける。ただし、日本のように「永久就職」ではなく、5年契約の任期付きで仕事を始め、キャリアアップを図る。その後、より条件の良い職につなぎ、10年ほどで「任期なし」の職を見つけるのが一般的だ。
ドイツの大学はどこでも授業料は無料(政府が支援)。ドレスデンは物価が大変安い。実際、
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