その実態は、使用していない基地の毒付き返還でしかない
2016年12月05日
国内最大規模の米軍専用施設で、沖縄県の東村と国頭村にまたがる北部訓練場(7,824ヘクタール)の過半(約4,000ヘクタール)が、本年12月22日に返還されることがほぼ固まった。返還後は、沖縄県内の米軍専用施設は17%減り、沖縄県への集中度も74.4%から70.6%に緩和される。政府は、沖縄の負担軽減だとして大々的にPR、国民世論を味方につけ、辺野古新基地建設にあくまで反対の姿勢を貫く翁長知事に圧力をかけるつもりだ。
北部訓練場の過半の返還は、1996年のSACO(沖縄に関する特別行動委員会)合意に基づくものである。95年9月の米兵3人による少女暴行事件で沸騰した沖縄県民の反基地感情を鎮めるため、日米両政府は、普天間基地の返還、七つのヘリパッドを含む北部訓練場の過半の返還などを含むSACO合意を96年に行った。
しかし返還の条件は、代替施設としての辺野古新基地の建設であり、高江集落を取り囲む六つのヘリパッド(実態はオスプレイパッド)の新設だったのである。旧式化し、かつ都市のど真ん中にあって使い勝手の悪い普天間基地のかわりに軍港付き、弾薬搭載エリア付きの最新鋭基地を、日本国民の血税でつくるという辺野古新基地建設が、負担軽減のはずはない。北部訓練場も、使っていない地域とヘリパッドを返還するだけのことであり、これまた負担軽減では全くない。
高江に関して言えば、人口150人の集落を取り囲む形で6カ所のオスプレイパッドが建設され、昼夜を問わず低空飛行訓練が繰り返されることとなる。2012年4月に米軍が発表した「環境レビュー」によれば、使用するのは専らオスプレイであり、各オスプレイパッドを年間420回訓練に使用するとしている。6カ所のオスプレイパッドのうちN4地区の2カ所は既に2014年に完成し、15年から使用されているが、一番近い人家までわずか400mであり、夜10時以降も繰り返される低空訓練飛行は、子どもたちから睡眠を奪い、避難を余儀なくさせている。
さて、米軍基地が返還されるたびに問題となるのが、汚染除去である。日米地位協定第4条第1項は、米軍が基地を日本に返還する際の原状回復義務を免除している。このこと自体、汚染者負担の原則に背くものであり、沖縄が繰り返し改正を求める点の一つである。しかし、対米従属の姿勢が骨の髄までしみ込んでいる政府は、地位協定の運用改善を言うだけで、何ら実効性のある措置を講じてこなかった。また国民も、大方のメディアも、沖縄にしわ寄せし、頰かむりを決め込んできた。
今回の北部訓練場の過半の返還に際して、米軍に代わって汚染除去を行うのは沖縄防衛局である。その沖縄防衛局が、土壌汚染調査・浄化処理(支障除去)の対象として想定している地域は、①米軍車両の通行があった道路、②既存のヘリパッドとその周辺、③ヘリが墜落し(6件の墜落事故があった)土壌汚染などの蓋然(がいぜん)性が高いと考えられる場所、と極めて限定されていることが市民調査団体「インフォームド・パブリック・プロジェクト」が入手した沖縄防衛局の文書から明らかになった。広大なジャングル訓練場の中の「点」の浄化でしかなく、毒付き返還される北部訓練場の中のかなりの毒が、浄化されないままとなる恐れが極めて強い。
特に問題なのは、枯れ葉剤による
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