定着しなかった「一人一円運動=地方自治体と基礎科学を結ぶ呼びかけ」
2016年12月08日
2002年にノーベル物理学賞を受けた小柴昌俊さんが設立した平成基礎科学財団が来年3月末で解散する。
基礎科学を多くの人に理解してほしいと一線の研究者が講師となって「楽しむ科学教室」を全国各地で開き、教育者を対象に「小柴昌俊科学教育賞」を、物理学者を対象に病魔に倒れ亡くなった弟子たちの名前を冠した「折戸周治賞」「戸塚洋二賞」を授与してきた。小柴さんは今年90歳、自分が始めたことだから自分が元気なうちにけじめをつけたいと決断した。
平成基礎科学財団のホームページに小柴さんが発表した「解散のお知らせ」によると、理由は財政面と人事面の二つある。人事面とは、すなわち高齢化だ。理事長の小柴さんだけでなく、活動を支える理事や評議員たちも小柴さんと同世代の人が多く、高齢化している。「より若い世代の研究者の方々にこの事業を引き継いでいただくことは好ましいこととは考えません。・・むしろ研究に専心していただき、いっそうの成果を挙げていただくことが望ましいと考えております」と「解散のお知らせ」にある。
財政面では、当初は多かった地方自治体の賛助会員が年とともに減り、その寄付金が激減してきたことが挙げられている。会員数の変化を毎年の報告書から拾ってグラフにしてみた(右図)。法人会員は大学や企業などで、団体会員はほとんどが地方自治体だ。どちらも「一口1万円以上」の寄付をすれば賛助会員になれる仕組みは同じだ。しかし、地方自治体からの寄付を仰いで基礎科学の振興をしたいということこそが小柴さんのユニークなアイデアだった。政府や一部の篤志家からお金をもらうのではなく、国民一人ひとりの支持を得て活動したいと願ったのだ。
これがノーベル賞受賞後まもなく提唱した「一人一円運動」で、多くの地方自治体に人口に相当する金額(例えば人口50万人なら50万円)を財団に寄付してもらうように呼びかけた。基礎科学を地方自治体が支援するということも、一人一円という発想もそれまでにないものだったが、あるいは、ないものだったからこそ岩手県の増田寛也知事(当時、以下同)や
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