米山正寛(よねやま・まさひろ) ナチュラリスト
自然史科学や農林水産技術などへ関心を寄せるナチュラリスト(修行中)。朝日新聞社で科学記者として取材と執筆に当たったほか、「科学朝日」や「サイアス」の編集部員、公益財団法人森林文化協会「グリーン・パワー」編集長などを務めて2022年春に退社。東北地方に生活の拠点を構えながら、自然との語らいを続けていく。自然豊かな各地へいざなってくれる鉄道のファンでもある。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
鈴鹿・御池岳のオオイタヤメイゲツ群落を守りたい
滋賀県と三重県にまたがる鈴鹿国定公園の御池岳(1242m)山頂付近に、全国でも珍しいオオイタヤメイゲツの純群落がある。亜高山帯に育ち、貧栄養な土壌条件にも強い性質を持つカエデの仲間で、大きな木は高さ20mほどになる。その希少性から、1983年には朝日新聞社と森林文化協会による「日本の自然100選」の一つに選ばれた。ところが、この貴重な群落が5年ほど前から、増加したシカによる食害を受けて危機に陥っている。幹にネットを巻くなどの対策が一部で始まったものの、現状は予断を許さない。
全国で広がるニホンジカの増加は、この群落のある滋賀県でも例外ではない。県内森林でのシカによる食害は2000年代に入って急増した。最近は年間1万頭を超す捕獲を続けているが、森林内では稚樹の食害や成木の剥皮被害、そして林床植生の破壊が進行している。現在は、滋賀県ニホンジカ第二種特定鳥獣管理計画の下、年間1万6000頭 の捕獲目標を掲げている。
そうした中で、滋賀県が御池岳のオオイタヤメイゲツ群落のシカ食害に気付いたのは2011年春のこと。成木の樹皮が大きく剥がされた痕が見つかった。翌年にはいっそうの被害拡大が見られ、枯れた木が強風によって散乱したり、根返りしたりした様子も確認された。この年に実施された調査では、ほぼ半数の木で大なり小なりの剥皮被害が見つかり、幹の直径が大きいほど被害を受ける傾向にあった。