メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

再現できない論文の退治法

欧米の研究者たちの強い危機感、生命医学研究に革命到来?

高橋真理子 ジャーナリスト、元朝日新聞科学コーディネーター

 細胞を使った実験で有望な物質が見つかったら動物実験をし、次に人間で安全性と有効性を調べ、結果が良ければ新薬誕生――長年続いてきたこの生命医学研究のやり方にいま、大きな危機が訪れている。同じ実験をしても結果が同じにならない、つまり再現性がないというケースが余りに多いのだ。再現できない実験をいくらやっても研究費をどぶに捨てるようなもの。危機感をもった研究者たちが、再現できない理由の解明と対策に乗り出している。

 再現できないと聞くと実験に不正があったのだろうと思いがちだが、バイオ分野の場合、実験条件を完全に一致させることは難しく、不正がなくても再現できない例は珍しくない。それにしても、2012年にネイチャーにバイテク企業アムジェンの研究者が発表した「がん治療分野の53の有名論文を追試したら6つしか再現できなかった」という記事の衝撃は大きかった。89%が再現不能という余りにも高い率に、誰もが腰を抜かした。

半分以上の論文が再現できない

 昨夏に英国マンチェスターで開かれたユーロサイエンスオープンフォーラム(ESOF2016)でも、この問題を論じる分科会がもたれた。そこで発表されたデータによると、ほかの調査でも再現不能率は78%(67論文のうち)、54%(238論文)、51%(257論文)、51%(80論文)と高い。どう見ても半分以上の論文が再現できないのだ。

「米国のバイオ研究費の無駄遣いは年に280億ドル」と示すスライド=2016年7月、ユーロサイエンスオープンフォーラム

 そうだとすると、米国のバイオ研究費のうち年280億ドル(3兆2500億円)が無駄になっているという、とてつもない数値が出てくる。生命科学研究の危機だと多くの人が深刻に受け止めたのも当然だろう。

 ジョンズホプキンス大学のトマス・ハータン教授のグループは、

・・・ログインして読む
(残り:約1393文字/本文:約2108文字)