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企業の気候リスクの開示に指針

その4 TCFDメンバーの長村政明氏に聞く

石井徹 朝日新聞編集委員(環境、エネルギー)

 気候関連ディスクロージャータスクフォース(TCFD)が昨年12月、提言案を発表した。

 G20財務省・中央銀行総裁会議は2015年4月、世界主要25カ国の金融規制当局や中央銀行が参加する金融安定理事会(FSB)に、金融にかかわる気候変動のリスクの情報開示のあり方について検討するよう要請した。

 これを受けてFSBは同年12月、パリ協定を決めたCOP21で元ニューヨーク市長のマイケル・ブルームバーグ氏を議長とするTCFDの設立を公表。TCFDは、各国の銀行、保険、年金基金など様々な組織にかかわる32人で構成され、昨年末までに提言案をまとめるべく議論を続けてきた。

提言の主な特徴
・すべての組織で採用が可能
・財務報告に含まれている
・決定する際に有益で、財務への影響に関する先見性のある情報を提供できる
・低炭素経済への移行に関するリスクと機会に焦点をあてている

 提言案は、2月中旬までパブリックコメントを受け付けている。正式決定後、4月のG20と6月のG7で報告される予定だ。

 日本人で唯一、TCFDメンバーとして議論に参加していた東京海上ホールディングス経営企画部部長兼CSR室長の長村政明さんに、提言の内容と意味に加え、日本企業はどう対処すべきか、などについて聞いた。

日本人で唯一、TCFDメンバーとして提言案のとりまとめに尽力した長村政明さん日本人で唯一、TCFDメンバーとして提言案のとりまとめに尽力した長村政明さん

 ――今回の提言の特徴について教えてください。

 長村 これまでの企業の気候関連の情報開示は、どれだけ温室効果ガスを排出しているか、どのようなオフセットしているか、などにとどまっていました。でも、これだけでは今後、気候変動が企業にどのような物理的、社会経済的なインパクトをもたらすか、企業がどう抗していけばいいのか、などを読み取ることはできません。

 その難点を克服すべく、提言案では、取締役会や経営陣という企業のトップレベルが、この問題をとらえているか、を示すことを促しています。気候変動リスクに対して、企業としてどのような備えを考えているのか、ということです。

 一方で、チャンスや機会として何ができるのか、についても、示してもらうことにしています。これまでと違う掘り下げた内容になっています。

提言が開示を推奨する気候関連財務情報
・ガバナンス(リスクと機会に関する組織の統治体制)
・戦略(ビジネス、戦略、財務計画への現実的、潜在的な影響)
・リスク管理(リスクを定義、評価、管理するプロセス)
・指標および目標(リスクと機会を評価、管理するための指標と目標)

 ――具体的にはどんな点が新しいのですか。対象となる企業の範囲はどのぐらいでしょうか。

 長村 シナリオという考え方が新しく加わったことが、特筆すべきでしょう。金融機関だけでなく株式を公開したり、市場から資金を調達したりしている公な存在になっているすべての企業が対象です。年金基金のようなアセットオーナーも対象として想定しています。

シナリオ分析 提言が開示を推奨する重要な一つは、2度シナリオを含む将来の様々な状況下での、組織のビジネス、戦略、財務計画に関する気候関連のリスクや機会についての潜在的な影響という情報である。

 ――提言に従うかどうかは、あくまで任意ですよね。

 長村 TCFDに負託された前提は、ボランタリーの開示ついての提言です。ただ、フランスでは、今年から企業の強制開示が始まるなど一部の国では法制化に動いています。北欧やオランダなど欧州連合(EU)の複数の国は早晩、規制に踏み切る可能性があります。

 規制化を明言していないものの、中国も注目しています。

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