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アルツハイマー病研究はどこまで進んだか

予防薬の開発の最前線を見る

北原秀治 東京女子医科大学特任准教授(先端工学外科学)

 在ボストン日本総領事館が開いた科学に関する意見交換会で、アルツハイマー研究第一人者であるボストン大学医学部教授の池津庸哉先生と知り合うことができた。

池津庸哉ボストン大学医学部教授

 世界の認知症患者の数は2050年に現在の3倍、1億3200万人に達するという報告が2015年にAlzheimer’s Disease Internationalから発表されている。現在、認知症発症の原因の半分以上がアルツハイマー病と考えられおり、完治させる治療法がないこの病気にどう打ち勝つかは世界全体にとって大きな課題である。

 今後の創薬の行方はどうなりそうか。池津先生から研究の最前線を聞き、近い将来アルツハイマー病を予防できる日はやってくると確信できた。

アルツハイマー病(アルツハイマー型認知症)とは

 ハーバードメディカルスクールが発行するハーバードヘルスレターで、「健康的な生活がアルツハイマーを予防する」という面白い記事を見つけた。家族のために身を粉にして働くよりも、家族のために健康的な生活をしてアルツハイマーにならないようにしようという内容だ。アメリカではまだ日本ほど高齢化が進んでいないが、それでもアルツハイマー病に対する関心は高まっているのである。

 アルツハイマー病(アルツハイマー型認知症)は1907年にドイツのアルツハイマー博士によって報告された神経変性疾患である。脳内の神経細胞(再生不可能)が徐々に壊れ、脳が次第に委縮していく疾患だ。脳の老化現象ともいえるもので、高齢化が世界に類をみないスピードで進む日本においては当然のように増え続けている。だが、詳しい原因は未だはっきりせず、明確な治療法も見つかっていない。

 ハーバードレターによると、いくつかの健康習慣がアルツハイマー病の予防に役立つことが確かめられている。一つは、身体運動で、発症を防ぐだけでなく、現在症状のある人の進行も遅らせる。たとえば、「週3〜4日、30分の適度な有酸素運動」といった感じでエクササイズをする人のほうがしない人よりも発症リスクが下がる。二つめは食生活である。新鮮な野菜や果物、オリーブオイルやナッツ類、適度な量の卵や乳製品、赤ワインなどを、摂取したほうが発症リスクは低い。最後は充分な睡眠である。睡眠は、一日7−8時間の充分な睡眠が、症状の進行抑止と予防に役立つと報告されている。それら以外の予防法には十分な証拠はないと著者で同レター編集長のハイディゴッドマン氏は言う。

 しかし、薬で予防できないかと研究に励んでいる科学者たちもいる。アルツハイマー病は、

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