コスタリカの先住民族の知恵
2017年03月23日
コスタリカの首都サンホセから30分ぐらい北西に車を走らせると、国連決議によって設立された国連平和大学があるシウダー・コロンの街に着く。そこから15分ほど山を登った山頂エリアに、ひっそりと六つの集落に分かれて暮らす先住民族(Huetar族)のキティリシ先住民族居住区がある。
六つの集落の人口は合計2500人。コロンブスがコスタリカに到着する1502年よりもはるかに前からこの地で暮らして来た先住民が、首都サンホセからこんなに近い所にも暮らしていることは、コスタリカ人にすら知られていない。
このエリア出身の先住民、ファビエール・メナ・メナ君の案内で、集落の代表を務め、先住民族の権利を獲得するための運動をしているNGO、MNICR(Mesa National Indigena Costa Rica)メンバーのオルデマール・ペレスさん(62)を訪ねた。
ファビエール君によると、コスタリカの先住民は10万4123人(2011年統計)で、コスタリカの人口の約2%。ペレスさんは、このままでは数十年で先住民が消滅する危機にあると嘆く。コスタリカでは先住民族の社会的地位が低いため、先住民族以外との婚姻を望む若者が増えており、現在では六つの集落で生まれてくる子どものわずか20%が純粋な先住民族だという。
集落の人口は2500人だが、先住民はわずか999人という。10年ほど前からこの流れが加速しており、近い将来、純血の先住民族が消滅してしまうことを、ペレスさんは危惧している。テレビやラジオやインターネットを通じて見えてくる、現代的で華やかなライフスタイルのイメージから、自分たちに誇りを持てない若者が増えてしまっている。
ペレスさんは、そのような若者たちが先住民の文化に誇りを持てるよう、古来より受け継いで来た自然に関する知恵や考え方、手工芸品を作る技術、そして伝統医学などを伝える活動をしている。先住民にとっても最も大切なことは、母なる自然を尊敬することだ、と何度も強調した。
「先人たちが山頂エリアを選び、暮らして来たことには理由がある」とペレスさん。動植物が豊かで、豊富な水が手に入るからだ。
いまでは多くの伝統が失われつつあるが、ペレスさんが若い頃は、まだ森に入り、動物の狩りをしていた、と懐かしそうに、また楽しげに語った。矢の先端に毒を塗り、獲物を取って食べていたのだ、と。食事は一日一食。時計がなかったので時間は定かではないが、お昼時におなかがすけば、森に自生している野性のフルーツなどを食べていた。
貨幣経済が存在していない世界。その日その日に必要な食べ物を森から得る、そんな暮らし方がとても魅力的に思えた。
「必要な恵みは全て自然が与えてくれる。大都市にはテレビやコンピューターなどのテクノロジーがあるけれども、一度大災害が起きれば滅んでしまう。私たちはこの森で暮らしている限り、自然災害があっても生き残ることが出来る自信があるんだ」。大きく元気な声で、自信たっぷりに語るペレスさんは、こう力説した。
ペレスさんの言葉で特に印象に残ったのは、時間の捉え方だった。先住民は「未来は前ではなく後方にある」と考えるそうだ。未来は過去に存在するというのだ。
例えば、子どもが生まれた時、その子どもが将来どんな職業につくのかは分からない。だが、過去から学んだ伝統や知恵なら、その子どもに伝えることができる。新しく生まれてくる子どもには、木の性質や植物の扱い方といった自然、先住民の伝統を教えていくことができる。先住民は、過去を見つめ、過去から学び、未来を紡いでいくというのだ。ひょっとしたら、ほとんどの時間を狩猟採集民や農耕民として時を過ごして来た人類は、同じように考えてきたのかもしれない。
ペレスさんの時間の捉え方を聞きながら、思い出したのが、
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