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高校生の「科学五輪」に運営の危機

科学技術立国を掲げながら、お寒い日本の現実

松田良一 東京理科大学教授

 「異才」を大学に受け入れたい。多くの大学で科学オリンピック成績上位者等を受け入れるべく推薦入試がスタートして1年がたつ。私の属している東京大学にも、このような「異才」たちが入学してきた。

 科学オリンピックは、世界中の高校生らが参加して、科学技術の知識や問題解決力を競う国際的なコンテストだ。物理・化学・生物・地学・数学などの分野ごとに、参加国が回り持ちで開催する。私は国際生物学オリンピック委員会の本部委員で、日本委員会では運営副委員長をしている。

 私の大学のクラスにも、この成績上位者の枠で入学した学生がいる。個人的見解ではあるが、確かに良い影響がある。その学生は授業中にも質問が多い。突っ込んだ議論をすると、周囲の学生にも刺激になり、質問や議論の好循環が起きる。やはり、別の物差しで選抜した「異才」の入学は本人のみならず他の学生達にも高い教育的効果があるようだ。

見劣りする日本の運営態勢

 問題はその判別・認定をするしくみの運営にある。ここ数年、日本代表の生徒たちは国別順位で60数か国中、数位以内という好成績を上げている。多様な能力や「異才」をもつ若者を評価して勇気づけることは大事だ。しかし、我が国の生物学オリンピックの運営体制は予算的人的サポートが乏しく、その永続性は心もとない。

2015 年の国際生物学オリンピックに臨んだ日本代表の4人は 全員がメダルを獲得した=国際生物学オリンピック日本委員会提供
 国際生物学オリンピックの運営に大きく貢献し、代表生徒も好成績を上げているドイツの場合と比較してみよう。

 ドイツではキール大学のライプニッツ理数教育研究所に生物学(IBO)、 物理学(IPhO)、化学(IChO)の各国際科学オリンピックおよび国際ジュニア科学オリンピック(IJSO)の実施本部がある。また、欧州科学オリンピック(EUSO)とドイツ連邦環境計画コンテスト(BUW)の本部も置かれている。その研究所員の中に、各科学オリンピックやコンテストの運営責任者が数名いて、彼らは理科教育や教育心理学の専門家である。運営予算は全てドイツ連邦政府とキール大学が出している。

ボランティアには限界が

 一方、日本はどうだろう。私が属する国際生物学オリンピック日本委員会では毎年、各地での啓蒙活動とともに生物学に強い高校生を選抜している。国内一次選抜を全国約100か所の試験会場で実施し、4,000名程度からトップ80名に絞る。さらに実技試験と記述試験を重ね、最終的に日本代表生徒4名が選ばれ、国際大会に送り出す。多大な手間と時間をかけて運営をしているのだ。

 ところが、生物学オリンピックの運営予算は文科省財源が7割しかなく、残りは寄付だ。生物学オリンピックの実施運営を本務とする人はいない。実施メンバーは全員、ボランティアとして勤務時間外に従事し、寄付金の心配までする。大変な重労働だ。

帰国して文部科学省を表敬訪問した2015年の日本代表メンバー=国際生物学オリンピック日本委員会提供

 代表選抜でトップ80名の範囲に入った生徒は、大学入試の推薦書類にも特記できる。近年はAO入試の物差しにも導入されるようになり、より神経質になってきた。科学オリンピックの国内選抜受験者は医学部進学希望者がぐんと増えている。そのため国内選抜の運営にも、入試レベルと同様の高い精度と機密性が求められるようになってきた。

 大学人であれば、本務校の入試業務は最重要任務の一つであり、当然、その実施予算や試験の精度・機密性は確保される。しかしボランティア活動でやっている科学オリンピックで、こうした高い精度・機密性の条件をクリアするのは至難の業だ。

世界の流れに遅れるな

 さらに今、私が心配しているのは、

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