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科学外交における科学者の役割

明確な規範が存在しない現状を憂える

松田裕之 横浜国立大学大学院環境情報研究院教授、Pew海洋保全フェロー

南アフリカ科学フォーラムでのパネル討論。持続可能な社会に向けた科学者の公衆関与について議論した。壇上中央が筆者=JST提供
 昨年12月8,9日に南アフリカのプレトリアで開かれた「南アフリカ科学フォーラム(SFSA)」 に参加し、「Science Diplomacy(科学外交)」について考えさせられた。「科学」に「国際」はなじむが、「外交(Diplomacy、D.)」は科学(Science,、S.)と縁がないと思う人も多いだろう。しかし、この用語が「Open Science」とともに本フォーラムでは頻発した。世界的に注目されている概念なのである。ただし、そこで科学者がどのように役割を果たすべきか、あるいは果たせるのかについては、試行錯誤が続いていると感じた。

 科学外交には3つの側面がある。「外交に用いられる科学(D. in S.)」、「外交を促す科学(S. for D.)」、そして「科学のための外交(D. for S.)」である。これらを同じ言葉で表すことに個人的には違和感がある。今回は外交に用いられる科学を中心に考えてみたい。

 科学者の国際活動には、次の3類型がある。(A)通常の国際学会。その目的は研究内容の紹介や科学者同士の交流である。(B)生物多様性条約、ワシントン条約や国連海洋法条約などの国際条約関係の会合。これは研究発表の場ではないが、国際条約の流れを決める場である。(C)海外の環境政策や地域政策の会合や打ち合わせの場に「助言者」などの立場で参加すること。日本や国際基金等が資金援助する場合に、その助言者には発言力がある。

 今回のフォーラムはこのいずれにも当たらず、いわば「社会に対する研究者のかかわり方」を議論する場であった。

 しかし、研究者は(A)の場での研究発表方法の訓練を受けているが、(B)や(C)の場での特別な訓練は積んでいない。何をどこまで語るかは人それぞれである。さりとて、今回のフォーラムのような場でその規範を決め、(B)や(C)に還元される仕組みもない。これでは「科学外交」といっても大変心もとない。

 (B)であろうと(C)であろうと、参加した科学者にとってそこは個人的見解や個人の思想信条を述べる場ではない。しかし、それさえ、社会の共通認識とは言い難い。

 外交交渉において、科学的知見は双方の利害対立を調整し、共通の目的のための合意を促す可能性がある。欧州の酸性雨問題では、英国等から北欧に域外汚染していることが科学的に明らかになり、国際条約を実らせた。外務省が言う「科学技術外交」はこの意味である。残念ながら、昨今の浮遊粒子状物質(SPM)を巡る中国と日本の関係は、欧州のようには進んでいない。

エコパークの一つ、イラン国ゲシュム島ハラ地域の定置網漁業。科学的助言には現場の実情を理解が不可欠だ=2012年著者撮影
 また、私はユネスコ「人間と生物圏(MAB)」計画に日本政府代表団として参加し、志賀高原ユネスコエコパーク拡張登録の際には必死で演説したこともある。だが、そうした経験から感じるのは、
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