明確な規範が存在しない現状を憂える
2017年03月24日
科学外交には3つの側面がある。「外交に用いられる科学(D. in S.)」、「外交を促す科学(S. for D.)」、そして「科学のための外交(D. for S.)」である。これらを同じ言葉で表すことに個人的には違和感がある。今回は外交に用いられる科学を中心に考えてみたい。
科学者の国際活動には、次の3類型がある。(A)通常の国際学会。その目的は研究内容の紹介や科学者同士の交流である。(B)生物多様性条約、ワシントン条約や国連海洋法条約などの国際条約関係の会合。これは研究発表の場ではないが、国際条約の流れを決める場である。(C)海外の環境政策や地域政策の会合や打ち合わせの場に「助言者」などの立場で参加すること。日本や国際基金等が資金援助する場合に、その助言者には発言力がある。
今回のフォーラムはこのいずれにも当たらず、いわば「社会に対する研究者のかかわり方」を議論する場であった。
しかし、研究者は(A)の場での研究発表方法の訓練を受けているが、(B)や(C)の場での特別な訓練は積んでいない。何をどこまで語るかは人それぞれである。さりとて、今回のフォーラムのような場でその規範を決め、(B)や(C)に還元される仕組みもない。これでは「科学外交」といっても大変心もとない。
(B)であろうと(C)であろうと、参加した科学者にとってそこは個人的見解や個人の思想信条を述べる場ではない。しかし、それさえ、社会の共通認識とは言い難い。
外交交渉において、科学的知見は双方の利害対立を調整し、共通の目的のための合意を促す可能性がある。欧州の酸性雨問題では、英国等から北欧に域外汚染していることが科学的に明らかになり、国際条約を実らせた。外務省が言う「科学技術外交」はこの意味である。残念ながら、昨今の浮遊粒子状物質(SPM)を巡る中国と日本の関係は、欧州のようには進んでいない。
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