トランプ、WELQが示した「情報と実体の乖離」
2017年04月03日
フェイク(偽)ニュースが横行している。ウェブ上のマーケティングだけでなく、米大統領選やロシア政府の関与など国際政治まで左右する勢いだ。 「代わりの事実(オルターナティブ・ファクト)」という珍妙な造語まで出てきた。これはトランプ新大統領の上級顧問K. コンウェイが、報道官の誤った発言を擁護して使ったが(jp.wsj.com、1月27日)、G. オーウェルの反ユートピア小説『1984年』を連想させた。こうした傾向を「ポスト・トゥルース(真実後)の時代」と位置付ける向きもある(毎日、1月30日)。
ニュースだけでなく偽装、偽データなど偽情報はますます氾濫しており、一過性の問題とは思えない。一体何が起きているのか。より広く深く、文明論的視点から捉え返したい。
大統領に選ばれるまでも、またその後も、トランプは自ら進んで偽ニュースの発信元になっている。最近ではオバマ前大統領に対しても「選挙戦中に盗聴を指示した」とか、あるいは「グアンタナモ収容所から釈放した囚人122人が戦場に戻っている」などと批判した (朝日他、3月8日) 。この前者(盗聴疑惑)には証拠がなく(ロイター、3月8日)、また後者(囚人釈放)は数字に大きな誤りがあった(朝日、前出他)。トランプについては、米メディア「ポリティファクト」が選挙期間中から最近の発言を検証し、「真っ赤なうそ」「誤り」「ほぼ誤り」で計約7割を占める、と指摘している(毎日、1月30日)。
偽ニュースが伝染する欧州では、政府や新聞社などがデマ対策に本腰を入れ始めた (朝日、1月21日)。「信憑性判定ツール」などまで開発されたが、相手とする情報が膨大すぎ拡散が急速すぎて、対策は容易ではない。
ロシアは真偽の「認定制度」を打ち出し、偽ニュースに「FAKE」の赤印を押す、と宣言した(読売、2月23日)。しかしこれなどは(トランプと同じく)偽ニュースと同じ土俵で、世論を有利な方向へ導こうという情報戦の意図に他ならない。火に油を注ぐ効果しかなさそうだ。
偽ニュースだけでなく、ウェッブ上では広く偽情報の蔓延が問題になっている。最近のきわめつけは、大手IT企業ディー・エヌ・エー(DeNA)の医療系サイトの問題だろう。
昨年末、DeNAが運営する10のキュレーションサイトのうち、9サイトがサービスを停止した。このうちの一つ、医療系まとめサイト「WELQ(ウェルク)」で、科学的根拠に欠ける記事や無断転用が次々と発覚。「炎上」したことがきっかけで、疑惑が芋づる式に提起された。検索を「誘導」する過熱コンテンツ(記事)の不正確さや、著作権の問題も浮き彫りになった(読売、12月2日;他)。第三者委員会の調査によれば、画像の最大75万件近く、記事の最大2万本超で著作権侵害の疑いがある(朝日、3月13日;他) 。
「正しさは二の次(つまり真偽は問わない)」。これがネットビジネスの新しい構造だ(以下、奥村倫弘氏論考、読売、1月18日他による)。
インターネットの「プラットホーム事業」というと、ツイッター・フェイスブックなど「情報発信をする場」を提供する業態を指す。中でも「キュレーションサイト」では、記事が読まれるほど広告収入が増えて儲かる。当然大量のコンテンツを作成すれば、それに比例して広告収入も増加する。内容の薄いコンテンツを大量生産するサービスのことを「コンテンツファーム」と言うが、DeNAはまさにこれを地で行った。
こうしたサイトビジネスで鍵となるのが
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