情報がモンスター化する潜在心理の土壌
2017年04月04日
引き続き、実体と情報の関係を整理しよう。
実体と情報の関係が変化した。
1)(本来なら)自分の感覚で直接確認できるものだけが「実体」だった。実体=事件の「物理的な」実体なのではない。むしろ目撃者や当事者によって知覚され「認知的に構成された」ものだけが実体を成し、情報の「正しさ」を保証した。それが今や偽情報も直接「感覚で体験」できるようになってしまった。映像技術、とりわけAR(拡張現実)やVR(仮想現実)技術がボーダレス化に貢献した。
2)(本来なら)直接体感したものだけが、情動効果の強さにおいて別格のはずだった。それが今や情動効果さえ情報技術で誇張されるようになった。偽情報でも情動効果には即効性があり、一度脳に刻まれると持続してしまう。
3)(本来なら)情報の真偽には天地ほどの価値の違いがあった。それが今や「アクセス数至上主義」によって価値がほとんど逆転した。
4)(本来なら)偽情報はすぐバレた。それが今や、情報拡散の仕組みが複雑化することで見えにくくなり、端的に「ブラックボックス化」が起きた( 本欄拙稿『ブラックボックス化する現代社会』)。
5)(本来なら)実体のみがリアルで持続的な経済効果を持つはずだった。それが今や、むしろ偽情報を乱発する方が(世論・顧客誘導という意味では)「コストパーフォーマンスが良い」事態になった。
繰り返すが、真偽のほどは本質的ではない。むしろそういう情報を受け入れ、増幅し、拡散する潜在心理の土壌があったこと(つまり人々の間に潜在的な「シェアド・リアリティ」があったこと)。これこそが重要なのだ。
かくしてネット社会で情報の真偽は、重要でなくなってしまった。だがこの話(真偽のボーダーレス化)には、まだ先がある。「重要でなくなった」という以上の、もっと積極的な心理作用が働くからだ。今述べた「潜在心理の土壌」がどう社会的に作用するかという話だ。
偽情報が拡散すると、それは実体=真なる事象へといわば「跳ね返る」。
本欄でプロ将棋の「スマホカンニング疑惑事件」について、「将棋ソフトの脅威から棋士間に疑心暗鬼が芽生え......」と書いた(『将棋ソフト「カンニング疑惑」のインパクト 』)。ある棋士が「不正をしているのでは」という評判が広がると、(偽情報だったとしても)周囲は疑いの目で見る。すると当人の何げない行動までが「不正」の証拠として受け取られてしまう。認知心理学でいう「サンプリングバイアス」だ。
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください