文科省ではなく、学生に向き合う姿勢を
2017年04月06日
昨今の日本の大学に関わる諸問題は、最終的にはその経済的基盤の脆弱さの解消なくしては解決不可能である。一方、ふるさと納税は、その制度が過熱気味なほどの「成功」を収めた結果、本来の趣旨から逸脱しているのではないとの社会問題に発展している。そこで、このふるさと納税制度を是正するのと同時に、国立大学法人への支援を組み合わせることで、2つの問題が一挙に解決するのではないかと考えてみた。必要であれば具体的な制度改革も含めて、是非とも実現させてほしい。
まず個人的な話から始めてみたい。私の出身地の高知県安芸市は人口1万8千人程度の高齢化が進んだ過疎地である。5年ほど前に両親が介護サービスを受けることになったのを機に、ふるさと納税を始めた。特に一昨年、昨年と続けて両親が他界したため、ほぼ隔月だった帰省の頻度が激減し、墓の管理に悩まされることになった。その矢先、安芸市のふるさと納税の「返礼品」に墓掃除手配が加わったことを知り、第1号として登録させて頂いた。年に4回、シルバー人材センターに依頼して、事前に相談した日程で、掃除、櫁(しきみ)と花の手配、その後の撤去を行ってくれる。
これは遠方で暮らす出身者にとって本当にありがたい「返礼品」である。と同時に、ふるさと納税の理念に合致した好例だと思われる。単に自分の先祖への感謝にとどまらず、シルバー人材の活用や、私が使途として選択した「ふるさとの文化と子どもを守り育てる取り組み」への支援を通じて、自分が生まれ育ちお世話になった故郷への恩返しが実感できる。これは自分の出身地以外への「ふるさと」納税では決して得られない喜びであろう。
小さな町に突然これだけの額が流入すると、定常的な運営に歪みが出る危険性すら危惧される。また、反対に税収が流出している市町村から不満が出ることも理解できる。本来の理念は良いとしても、過度な返礼品に加えて、このような弊害が顕在化している以上、その是正は急務である。
この制度を大学への寄付に有効活用できないものか。私はかねてからそう考え、実際に1年ほど前に、大学の執行部の方に提案したこともある。念頭にあったのは、以下のような大雑把な推定だ。
例えば、プリンストン大学の場合、年間予算は約16億ドル、その内訳は配当・投資益が7.5億ドル、学費が3.1億ドル、研究補助金が2.7億ドル、寄付が1.3億ドルとなっている。そもそも200億ドル程度の基金があり、年間10%程度の運用益を上げている。この基金は、長年にわたる卒業生や篤志家からの寄付の結果だ。おかげで、(ある程度は)米国政府におもねることなく、大学の理念に沿った教育・研究を遂行可能なのである。
一方で、東京大学の場合、病院を別とした総予算は約2000億円で(ちなみにプリンストン大学には医学部も、したがって病院もない)、国からの運営費交付金800億円がその4割を占める。また東大基金は総額100億円で、プリンストン大学の0.5%にも満たない。これでは真の意味での自主的な大学運営は難しそうだ。
国立大学法人といえども、その時点での政府の方針とは独立に、より長期的なスケールで教育・研究を行えるような安定した財政状況の確立を目指すべきだ。鍵となるのは、卒業生に感謝されるような教育を行ってきたかどうかである。
日本の国立大学出身者の大多数は、米国に比して愛校心が著しく薄い。その理由は、かつての大学が必ずしも学生のことを考えた教育を行って来なかったこと、そして学生もまた自分が受けている恩恵を認識していないことの2点にあるのではなかろうか。
プリンストン大学の場合、1年間の学費は500万円を超える。経済的に恵まれない学生がそれを全額免除されたならば、4年間で2000万円の支援となる。その学生が卒業後、経済的に恵まれて安定した地位を得たとすれば、それ以上の額を寄付しようと考えるのは自然である。ところが、日本の国立大学生は、親が学費を全額(現在は年間約50万円)支払うことが多いため、大学に対する感謝の念をおぼえにくい。
例えば私立大学と比べれば、年間100万円程度安いのであるから、その相当額は国、あるいは大学からの支援であるはずだが、そのようなことを考える学生は皆無であろう。それどころか、学生に「この程度の学費しか払っていないのだからまあいいか」という気持ちを抱かせ、学生が大学での教育に対して十分な満足感を得ることなく卒業してしまうことにもつながっている。
以上の理由で、私は大学教育の無償化には反対である。むしろ、国立大学の学費は倍程度に値上げし、経済的に余裕がある家庭から徴収することで、逆にそれ以外の学生には現在よりはるかに手厚い支援を行うべきであると考える。
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