~街路樹のコンパクト化・スリム化がトレンドの時代でも~
2017年05月04日
新緑の季節、各地の木々が枝葉を伸ばし始めている。大きく豊かな並木は美しい都市景観をつくる大きな要素となる。それとともに、人の心に潤いややすらぎを与える、日陰をつくって気温上昇を抑える、などの恩恵をもたらす。日々の仕事を通して緑の木々と向き合い、その多様な恩恵を感じている身の上だけに、本日の「みどりの日」に改めて緑あふれる並木とともに暮らしたいという思いは高まるばかりだ。
ただ最近は、並木やそれを構成する街路樹に関して、“コンパクト化”とか“スリム化”というキーワードが目立つようになってきた。並木は、恩恵の一方で、落ち葉の掃除がたいへん、伸びた枝で信号や標識が見えない、といった苦情をも引き起こす存在でもある。万が一、老朽化した大木が倒れたり枝が落ちたりして死傷事故が起これば、管理責任を問われかねない。道路を管理する自治体や国土交通省の財政事情が厳しくなっていることもあり、管理コストの削減も求められる時代だ。そこで現れたのが、街路樹を強剪定して小さくしてしまうばかりでなく、小ぶりなあるいは枝が広がりにくいような木に植え替えていこうとする動きだ。
これには①大きく育つ樹種をあまり大きく育たない樹種に置き換える、②枝を広げた樹形が一般的な樹種でも枝を広げない品種を使う、という二つの方向がある。
名古屋市は2015年に「街路樹再生指針」を策定した。約10万4000本の街路樹を管理しているが、その一部は植栽から40年以上が経過している。戦後の高度経済成長期には、工場の排煙や自動車の排ガスによる大気汚染の緩和、住宅地や工業団地の開発に対する代償として、街路樹に成長の早い樹種が多く植栽された。だが、そうした樹種が大きく育った今、倒木や落枝、根上がりといった問題も生じて、事故の懸念も高まっている。対策のための手間と費用も増えつつあり、管理上の転換点を迎えているとの判断が策定につながった。そして、そこに掲げられた再生方針1は、大きくなり過ぎたり倒木の危険性が生じたりしている樹種を、比較的コンパクトな樹形に整えることができて美しい花を咲かせる樹種に植え替えるというもの。担当の同市緑地維持課によると、具体的には、戦後に植えられて大きくなったアオギリ、ナンキンハゼ、エンジュ、プラタナスなどを計画的に伐採し、その代わりにハナミズキやサルスベリ、コブシ、ヒトツバタゴなどの花木を植えるようにしている。植え替えの対象となった樹種にも目立たない花は咲いているのだが、きれいな花が咲いて季節感を演出してくれることは住民の理解を得る上で、大切な要素であるらしい。
大きく枝葉を広げて、ほうきのような樹形となる街路樹と言えば、まずケヤキが思い浮かぶ。仙台市の青葉通や前橋市の駅前通のように、緑のトンネルを形成するケヤキ並木が、代表的な景観となっている都市もある。このケヤキで注目されているのが枝を広げずに直立する品種で、①道路標識や信号、電線の障害になりにくい、②限られたスペースを有効に利用できる、③剪定の省力化など管理費の軽減が図れる、といった理由で普及している。埼玉県花と緑の振興センターが発見し増殖したムサシノケヤキは、同県内の国道や市道をはじめ、各地で植えられている。
このように都市の並木に関わる問題を解決するため、コンパクト化やスリム化というトレンドが進むのは止められそうにない。だが、街路樹を大きくするという逆転の発想で、問題を解決した事例が高松市にあることを知った
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