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沖縄で明らかになった日本の環境民主主義の後進性

米軍基地をめぐる人権侵害の報告書を国連人権高等弁務官事務所に提出

桜井国俊 沖縄大学名誉教授、沖縄環境ネットワーク世話人

 琉球新報、沖縄タイムスの両紙は4月5日、沖縄の複数の非政府組織(NGO)が米軍普天間基地の移設に伴う辺野古新基地建設や米軍関係者による事件・事故などが「沖縄の人々の人権を侵害している」と訴える4点の報告書を国連人権高等弁務官事務所に提出したと報じた。

 本年11月、国連人権理事会は日本の人権状況の5年に1度の普遍的定期審査(UPR)を行う。沖縄のNGOは「自己決定権」「表現の自由」「女性の権利・子どもの権利」「環境権」の4点について、沖縄で人権が侵害されている状況を報告し、審査に反映させるように求めたのである。

 筆者が世話人の一人を務めている沖縄環境ネットワークは、他のNGOと共に、4点目の「環境権」に関する報告書を取りまとめ提出した。この報告書が明らかにしたのは、日本の環境民主主義の後進性である。

辺野古を巡る二つの最高裁判決

 世界一危険な普天間基地の「唯一の移設先」として建設が進められている辺野古新基地に関しては二つの最高裁判決が出ている。

 広く知られている辺野古訴訟は、翁長沖縄県知事による埋め立て事業の承認取り消しに対し国土交通大臣が県知事を訴えたもので、2016年12月20日の最高裁判決は、埋め立てを承認した仲井眞前知事の判断過程および判断内容に特段不合理な点があることはうかがわれないと述べ、国土交通大臣の請求を認容した。国は現在、この判決を錦の御旗に工事の再開を強行している。

 ここで論ずるのは、比較的に知られていないあと一つの最高裁判決である。その訴訟は周辺住民などが新基地建設に係る環境影響評価(以下「アセス」という)の不備を指摘して、手続き的権利としての意見陳述権に基づいてアセスをやり直す義務の確認を求めたものであるが、高裁判決はそもそも原告の意見陳述権を認めず請求を却下し、最高裁は上告を不受理としたものである(2014年12月9日判決)。

 この第二の最高裁判決に見られるように、日本ではアセスへの参加権が権利として確立されておらず、アセスの不備を理由に自然・文化財保護を目的とする訴訟を提起しても原告適格が認められず訴訟は却下されてきたのである。

辺野古アセスの問題

 辺野古新基地建設に先立って実施されたアセスは、環境影響評価学会初代会長の島津康男氏(名古屋大学名誉教授)が指摘するように日本のアセス史上最悪のアセスであった。最大の問題は、市民が意見を述べることができるアセスの「方法書」(2007年)及び「準備書」(2009年)の段階においてはオスプレイを隠し通し、市民が意見を述べることのできない「評価書」(2011年)の段階ではじめてオスプレイを使用機種として登場させたことである。アセス法が禁ずる「後出し」に限りなく近い。

縦覧に供された辺野古アセス準備書=2009年4月、沖縄県庁(筆者撮影)
 米側は1996年のSACO合意を巡る日米協議を通じて普天間飛行場へのオスプレイ配備計画を日本側に通告しており、移設先の辺野古新基地へのオスプレイ配備は自明であった。また米側は、オスプレイ配備を公表し住民の合意を得ることを求めたが、住民の反発を恐れた日本側が公表しないことを求めたのである。沖縄の市民は、米国におけるジュゴン訴訟の場に米国防総省が提出した証拠から日米間のこの協議内容を把握ずみであった。

 そこで市民は、

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