安定志向の高校生を在米研究者たちは揺さぶることができたか
2017年05月05日
スーパーグローバルハイスクール校に指定されている茨城県立土浦第一高等学校の高校生選抜チーム38人が、米国のボストンにあるハーバード大学やマサチューセッツ工科大学(MIT)に留学している大学院生や研究者と語り合う「研究者x高校生:Science Meeting in Boston」が、まだ雪が残る3月下旬に、由緒あるハーバード大学ファカルティクラブの一室で行われた。
スーパーグローバルハイスクールとは、国際的に活躍できる人材の育成を重点的に行う高校を文部科学省が指定するもので、語学力だけでなく、社会の課題に対する関心や教養、コミュニケーション能力、問題解決能力などを身に付けたグローバルリーダーの育成を目指す制度である。ドナルド・トランプ大統領が就任し、アメリカ国立衛生研究所の予算も2割削減となり、今後の日本人留学者が少なくなると予想される中、それでも世界最先端で奮闘する日本人留学生、研究者から、高校生たちは何を得ることができたか。
ここを会場に選んだのは、本イベントのオーガナイザーである筆者と、このツアーを企画している株式会社リバネス(生命科学などの理工系大学院生が中心となって起業した、科学や研究に関するプラットフォームビジネスを主軸にする企業)アメリカ社長である武田隆太氏が、こうした雰囲気の中でこそグローバルリーダーとしての素養が育まれると考えたからだ。
米国側からは、ハーバード大学に所属する理系研究者が3人、MITの日本人大学院生2人、そしてボストンで起業し、ボストン日本人商業会会長を務め、ボストン日本祭り実行委員長でもある八代江津子氏が講師として参加した。筆者も含めて、講師たちはそれぞれのバックグラウンド、なぜ世界に出たのか、なぜサイエンスを選んだのか、そしてなぜハーバード大学、MITに来たのかなどを高校生の前でプレゼンした。
それぞれのプレゼンのなかで共通する言葉、それはやはり視野を広げる必要性、そして世界に出て初めてわかる日本の姿というものであった。また、ものつくり大国とかつて言われた日本にとって、もちろん技術は重要であるが、それらはすべて研究、つまりサイエンスのもとに生まれるものであるということを、我々研究者は伝えることを忘れなかった。
日本人の海外留学者数は2004年をピークに減少傾向にある。さらに観光庁2015年統計によると、20代のパスポート取得率も減少しており、海外旅行に行く機会すら減少している。一つは日本が成熟し、日本の中で全て完結できる状態になったからこそであり、戦後復興から高度経済成長期を経て最終章である成熟国家に行き着いた結果である。しかし、対岸から見れば、グローバルリーダーを育てるどころか閉鎖的な時代に逆戻りしている。一方、東南アジア諸国から欧米諸国への留学者数は急激に増加している。帰国した彼らが、30年後に世界を動かす時、その横のつながりに日本は入っていけるのだろうか。
また、今後も日本人がノーベル賞を取り続けるにはどうしたらいいのかを考えるとき、研究留学の重要性は明らかだ。ノーベル賞受賞者のほとんどは研究留学をしていて、留学経験なしでのノーベル賞受賞は非常に少ない。今は大学に籍をおいたまま留学できる機会も少なくなり、さらに追い討ちをかけるようにトランプ政権によりVISA取得が難しくなっている。門が狭くなってきている今こそ、若い世代に世界の素晴らしさ、世界から見た日本の素晴らしさ、そして世界でサイエンスを学ぶことの素晴らしさを伝えるべきである。そう考えて、筆者はこのイベントをオーガナイズした。
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