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食物アレルギー予防のどんでん返し

「赤ちゃんの消化管は未熟だから食べさせるな」という仮説は間違いだった

高橋真理子 ジャーナリスト、元朝日新聞科学コーディネーター

 食物アレルギー予防の常識に、大きな地殻変動が起きている。きっかけは、英国の研究グループが2015年に発表した「赤ちゃんに早い時期からピーナツを食べさせると、ピーナツアレルギーになる可能性が劇的に減る」という研究成果だ。これは常識をひっくり返す衝撃の結果で、すぐに世界中で次々と「国や地域が違っても同じ結果が出るのか?」「ほかの食材はどうか?」などの研究計画がスタートした。現段階では、ピーナツ以外については「早く食べ始めた方がいい」と言う世界的コンセンサスはない。しかし、「赤ちゃんの消化管は未熟だから食べさせるな」という仮説、つまり「アレルギー予防のために食事制限をすべきだ」というかつてのアドバイスは誤りだったと専門医は認めている。

 ピーナツに関する最初の研究は「LEAP」と呼ばれる。英国マンチェスターで昨年開かれたユーロサイエンスオープンフォーラム(ESOF)で、研究チームのロンドン大学キングスカレッジのギデオン・ラック教授が概要を説明した。それによると、イスラエルにはほとんどピーナツアレルギーの子がいないと気づいたのが研究のきっかけだった。ロンドンでは、たとえユダヤ系の子どもでもピーナツアレルギーは多い。イスラエルで暮らす子どもと比べるとロンドンは10倍も多く、卵アレルギーや湿疹の頻度もロンドンの方が多かったもののピーナツアレルギーの落差は群を抜いていた。

 2008年当時、英国では生後1年間はピーナツを食べさせるべきでないという政府のガイドラインがあった。一方、イスラエルで生後4カ月ぐらいからよく食べられていた離乳食に相当量のピーナツたんぱく質が含まれていた。そこでラック教授らは次のような研究をした。

 湿疹もしくは卵アレルギーがあるけれどピーナツアレルギーは発症していない4~11カ月の乳児640人を集め、ピーナツを食べさせるグループと食べさせないグループに無作為に分けた。使ったのは、イスラエルの赤ちゃんが食べていたトウモロコシとピーナツバターが混じった口溶けのいい離乳食で、食べさせないグループ用には見た目が同じでピーナツが入っていないものを用意した。

 5歳になった時点でピーナツアレルギーの有無を調べることができたのは628人(脱落者が少ないのもこの研究の大きな特徴)だ。結果はというと、ピーナツを食べたグループの発症率は3.2%、食べなかったグループは17.2%で、何と食べた方が相対的に81%も少なかったのである。

 次に着手された「EAT」プロジェクトは、とくに湿疹などを持たない「普通の赤ちゃん」約1300人を対象に6種類のアレルギー食材(ピーナツ、卵、牛乳、ゴマ、白身魚、小麦)を生後3カ月から食べ始める「早期」と6カ月までは母乳だけにしてそこから食べ始める「通常」の二つのグループに分け、

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