メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

日本政府初の海洋生物レッドリストの問題点

同じ基準でも環境省と水産庁で大きく違う掲載種数

松田裕之 横浜国立大学大学院環境情報研究院教授、Pew海洋保全フェロー

  「日本の絶滅の恐れのある野生生物」(レッドリスト)の海洋生物版が2017年3月21日に環境省と水産庁から公表された陸域や淡水生物のレッドリストは環境省が1991年から順次作成している 。国際的には国際自然保護連合(IUCN)が日本の在来種も含めてレッドリストを作成している。今回のレッドリストは、海洋生物について日本政府が初めて作成したものだ。しかし、この官製リストには3つの大きな問題があると考える。

  まず、大型鯨類とマグロ類などの国際水産資源を評価しなかった。絶滅危惧種に指定されると、国際管理で日本自身が資源を乱獲している根拠となって不利になるかもしれないが、国際資源の科学的評価を避ける政府の体質そのものが外交上不利になるだろう。

  次に、漁業振興を担当する水産庁が水産生物や小型鯨類を評価した。普通はあえて第3者に評価してもらうものだが、真逆であり、これも水産生物の絶滅危惧種判定全体の信憑性を損なっている。

  最後に、環境省がレッドリストに掲載した種数に比べて水産庁が掲載した種数が少ない。比較のために魚類に絞る。環境省では評価対象種数約3900種の約5.5%に当たる218種が絶滅危惧種か準絶滅危惧(NT)か情報不足(DD)とされているのに対し、水産庁が評価した水産生物94種のうち、絶滅危惧種もNTも0種でDDがわずか1種、残りはランク外と判定された。

大阪湾のスナメリの群れ。IUCNや各県のレッドリストで絶滅危惧種に分類されているが、国のリストでは「ランク外」とされた=2015年、橋本弦撮影

  水産庁の掲載比率は、環境省と比べて統計的に有意に少ない。両者は、共通の評価判定基準に基づいて判定されている 。この結果の解釈は二通り考えられる。水産庁が評価した種のほうが実際に絶滅リスクが低いか、あるいは、評価の方法に何らかの問題があるか、だ。

  どちらの解釈が妥当かは、両方の判定根拠を精査せねばわからない。けれども、

・・・ログインして読む
(残り:約1583文字/本文:約2366文字)