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原発も核兵器も、核の脅威は変わらない

NPT準備委に見る「全用途での核物質生産禁止」という新潮流

鈴木達治郎 長崎大学 核兵器廃絶研究センター(RECNA)副センター長・教授

 5月2日から12日の10日間、ウィーンにて核不拡散条約(NPT)再検討会議の第1回準備委員会が開催された。筆者は、その前半(2日〜5日)の会合に出席し、会議の傍聴、並びにサイドイベントに参加して、政府関係者や専門家と意見を交換してきた。

 今回は核兵器禁止条約に向けての交渉が進む中での初めての準備会合であり、核兵器国・核の傘国と非核兵器国の対立が強く顕在化する中で、どのような議論が行われるか注目された。中でも筆者は、核兵器廃絶問題と原子力平和利用の関係がどう変化してきたかに注目した。NPTでは「侵さざる権利」として、原子力平和利用の推進を認めているが、一方で、特に福島原発事故以降、「核の脅威は共通」という認識が広まりつつあるからだ。

核抑止に依存する国と非核保有国の大きな溝

 まず、今回の会合では、核兵器国および核の傘にある国々がほぼこれまでと同様、あるいは今まで以上に「核抑止の必要性」を訴えた点が注目された。核兵器禁止条約交渉への批判として、「現在の厳しい国際安全保障環境」が指摘され、具体例として特に「北朝鮮の核の脅威」が挙げられた。

NPT準備委員会で演説する岸田文雄外相=5月2日、ウィーン
 会議冒頭で岸田文雄外相が発言し、「(現在の国際情勢を考慮すれば)核兵器を最小限にまで削減したうえで法的禁止の枠組みを導入すべき」と述べ、続いて米国のロバート・ウッド代表も北朝鮮の核の脅威を上げて、「北朝鮮への核にどう対応すべきかが、NPT再検討会議準備会合の最も重要な課題であるべきだ」と述べた。

 これらの発言に象徴されるように、北朝鮮の核の脅威は、核抑止力に依存する安全保障政策を再確認するよい口実として使われることになった。一方、核兵器の法的禁止を進めている非核保有国も、当然のことながら北朝鮮を批判したものの、それは核の脅威を取り除くことの重要性を改めて確認するためであり、同じ北朝鮮問題を取り上げてはいるものの、その考え方には依然大きなギャップが存在する。

懸念高まる「兵器転用可能核物質」の増大

 そういった中で、明るいニュースとしては、NPT体制の重要性とその維持・強化については、ほぼ共通の合意があったという点である。特にほとんどの国が発言の中で、原子力平和利用の重要性とNPTにおける平和利用への「侵さざる権利」(第4条)を訴えたことは、NPTの3本柱である「核軍縮、不拡散、平和利用」に対してバランスをとることの重要性を改めて認識させるものといってよいだろう。

朝鮮中央通信が3月7日報じた弾道ミサイル発射訓練=朝鮮通信
 一方、原子力平和利用の拡大と核の脅威の増大については、今後の重要な課題として注目を浴び始めている。特に福島第一原発事故以降は、原子力発電にともなう核の脅威についても核兵器と変わらない対応が必要である、との認識が広がっている点は注目に値する。

 中でも緊急課題として注目されているのが、兵器に転用可能な核物質(高濃縮ウランとプルトニウム)の増大に伴うリスクである。これについては、

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