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水産物に必要な「啓発されたマーケット」

乱獲を防止し、持続可能な漁業にするための認証制度を日本にも

阪口功 学習院大学法学部教授

「水産物の透明性と持続可能性」シンポジウムのセッション。着席者の右から2番目が筆者
「水産物の透明性と持続可能性」と題する国際シンポジウム(5月16、17日、早稲田大学)で研究者の立場から講演した筆者は、水産物の持続性には認証制度を通じて「啓発されたマーケット」を作ることが大事であると訴えてきた。この点で日本は欧米と比べ大きく後れを取っており、東京オリンピック・パラリンピックで世界水準に向かう流れができるかと期待されたが、残念ながら示された水産物調達の規定は甘く、期待はずれに終わった。しかし、日本でも「啓発されたマーケット」が黎明期を迎えていることは間違いない。これを大きく育てる必要があることを多くの方々に理解していただきたいと思う。

MSC(左)とASCのラベル
 日本のスーパー、デパートでは、ニホンウナギや太平洋クロマグロなど乱獲された魚がごく普通に並んでいる。これに対して欧米では、MSC(天然)やASC(養殖)などの国際認証制度により「持続可能性」のお墨付きを得た水産物が数多く並んでおり、乱獲された水産物を目にすることは少ない。欧米のスーパーで持続性が確認できない水産物は扱ってもらえなくなったことで、各国政府も資源管理を強化し、また漁業者も資源管理に真剣に取り組むという好循環を生んでいる。これが、認証制度を通じた「啓発されたマーケット」の力である。

 対照的に日本ではMSC認証は3件(北海道のホタテ漁、京都のアカガレイ漁、塩釜・明豊漁業のカツオ・ビンナガ一本釣り漁)、ASCは1件(南三陸戸倉のカキ養殖)の認証取得にとどまる。日本の多くのスーパー、デパートが、持続可能性を重視した水産物調達原則を持っていないことが普及の大きな障壁となっている。

 しかしながら、東京五輪招致を契機に国内でも国際認証に大きな注目が集まった。ロンドン以来、オリンピックではMSCやASCが調達の条件として採用されてきたからである。また、この4月にはスーパー最大手のイオンが100%MSC・ASC政策を宣言し、認証普及に大きな弾みを付けた。欧米から遅れること10年、ついに日本も持続可能な水産物マーケットの黎明期を迎えたと言える。

認証商品だけ集めたイオングループの魚売り場「フィッシュバトン」。「フィッシュバトン」は全国54店舗にある=東京都板橋区のイオンスタイル板橋前野町、イオンリテール提供

 ところが、この春採択された東京五輪の水産物調達の規定では、認証取得を要求しなかった。「資源管理計画」(天然)または「漁場改善計画」(養殖)があればよしとしたのである。これらの計画は漁業者が自主的に作成した上で行政が承認するものであるが、科学的根拠を欠く不適切なものが非常に多い。自民党行政改革推進本部では、1449件の資源管理計画に対し、資源状態の評価基準としては不十分な漁獲量や魚価などを用いた計画が8割近くにも及ぶとの厳しい指摘が出た。

 両計画を認めることで国産水産物の9割が調達可能となったが、日本の水産物の9割が持続的であるとは誰も思っていない。沿岸資源の実に半数が低位状態にあり、資源の枯渇に漁業者は悲鳴を上げている。この状況を打開するため、この春、政治主導で策定された新水産基本計画で資源管理の抜本的強化の方針が示された。

 にもかかわらず、東京五輪の調達規定は現状を肯定し、資源管理強化の機運に水を差しかねない状況である。東京五輪のレガシーとして「持続可能性の最大化を図る」とした公約にも反する。せめて

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