再生エネルギーの価格破壊で進む世界の地殻変動
2017年06月21日
今回の米国のパリ協定離脱を予見して、世界的に著名な温暖化問題専門の三つの研究機関が、その場合の温度目標との関係を分析していた。
その結論はインドと中国の石炭消費減が著しいため、トランプ政権が離脱しても2030年までの全球排出量には大きな衝撃を与えないだろうというものだ。この分析はワシントン・ポスト紙などでも報道されている。
この種の分析は今後、世界中の専門家が一斉に行うであろう。そして、パリ協定の1.5~2度目標や全球脱炭素にどんな影響が出るのか、明らかになるだろう。どんな結果でも、米国以外のすべての国は、パリ協定にとどまって21世紀後半の脱炭素化を目指して努力を一層強化するだろう。
特に、EU、ドイツ、フランス、中国、インドなどは、一層の団結と脱炭素化に向けて、作業の強化を図るだろう。その中で、カーボンプライシングなどを実際に導入する動きも強まるだろう。
もう一つ重要な展開は、米国の州や都市、それに脱炭素化を目指すビジネス界との連携の強化だ。トランプ大統領の離脱声明の直後、オバマ前大統領は「州、都市、ビジネスが温暖化防止の運動を引き継いで行く」と述べた。ニューヨークとロサンゼルスの市長は、共にパリ協定を支持して行動しようとしている。
実際、米国においては、州や都市の役割は非常に大きい。その多くは既に脱炭素に向かって政策を進めている。
統計によれば、全球の温室効果ガス(GHG)の70%は都市部で排出されている。カリフォルニア州とニューヨーク州の2州で米国人口の20%を占め、米国のGDPの20%を生産し、米国のGHGの10%を排出している。両州は、共に再生可能エネルギーの導入には非常に熱心だ。GDPの規模で世界の大国に匹敵する加州は、2025年までに州内の電力を100%再生エネ化するとしている。
今後は、パリ協定の作業はワシントンとではなく、米国のエネルギー転換の真の主人公である州、都市、ビジネス指導者、クリーンエネルギー推進団体、市民グループなどとの直接的な連携の中で進んでいくだろう。パリ協定の枠組みの中に、この連携を推進する新しい仕組みが考案され、新しいダイナミズムが生まれるだろう。日本の自治体も、政府とは別に世界議論に直接参加できるようになるかもしれない。トランプ大統領の否定的姿勢だけ見ていると物事を見誤る危険がある。
一方、世界各国は、米国に対して各種の対抗措置をとる可能性がある。
米国が地球環境保護に努力していないとして、米国製品に関税などで対抗措置を取ろうとするかもしれない。現に、米国の有力大企業25社が連名で、ニューヨーク・タイムズ紙とウオール・ストリート・ジャーナル紙に掲載した全紙面広告では、脱退した場合、外国が対抗措置をとる危険がある、と明白に記述している。トランプ大統領が言うように、パリ協定を脱退すれば万事うまくいくというわけではないのだ。
ビジネスの対応も注目点だ。今回、米国のビジネス全体が、非常に強いパリ協定支持の立場をとった。しかし、トランプ大統領は、全く歯牙(しが)にもかけない姿勢を取った。米国ビジネス界の多数の大立者、世界的に有名なリーダーたちの意見に、向き合う姿勢は全くなかった。むしろ、彼らの頰を黙ってぶん殴るような仕打ちだった。米国のビジネスは、トランプ大統領に反発して、エネルギー転換により一層突き進むのではないか?
私見では、数年後、米国は新大統領の下で、パリ協定に復帰する可能性が非常に大きい。グローバリズム反対論も、バノン補佐官がいなくなれば変わるだろう。バノン補佐官のような人物が、ワシントンを牛耳り続けるなどということはあり得ない。グローバリズム反対論が米国の本質だと考えている米国人はほんの一握りだ。
最新のBNEF(Bloomberg New Energy Finance)によれば、2016年世界全体での再生エネ新設発電容量は138.5GWだった。これは過去最大の新設容量である。
一方、再生エネへの投資額は2416億ドルで、これは2013年以来の低水準だ。重要なことは、再生エネの急速な価格低下のせいで、少ないコストでより大きな発電能力を生み出している点だ。しかも、2016年の再生エネへの投資額は、化石燃料への投資額の2倍なのだ。クリーンエネルギーへの転換は、
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