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チバニアンのかげに先人の偉業

地磁気逆転現象の発見に貢献した日本人

瀬川茂子 朝日新聞記者(科学医療部)

 地球の歴史の年代表に日本の地名が刻まれる期待が高まっている。千葉県市原市の地層が「国際標準模式地」の候補として国際地質科学連合に申請された。審査で認定されれば、77万~12万6千年前は「チバニアン(千葉時代)」と命名される。ただしライバルがいる。イタリアにもこの時代の境界を含む地層があり、2カ所の候補がある。イタリアに決まれば、イオニア海からとったイオニアンとなる。

拡大「チバニアン」の名で国際学会に申請される地層=千葉県市原市、石平道典撮影

 申請の理由は、この地層に約77万年前に地磁気が逆転した証拠が残っていること。地磁気の逆転現象は地球の年代を測るものさしの一つとして使われている。チバニアンと直接関係ないが、地磁気の逆転の発見に、日本人が大きな貢献をしたことを紹介したい。

 地球は大きな磁石で、方位磁針はN極が北を向く。この南北は不変ではなく、時代によって向きが正反対に変わる。これが地磁気の逆転現象だ。

  地磁気の逆転現象を1920年代に発見したのは、京都帝国大学教授の松山基範(1884ー1958)だ。

  「日も行く末ぞ久しき」(前中一晃著)によると、松山は1926年4月、兵庫県の玄武洞の岩石の「残留磁化」を測定した。それが現在の地球磁場方向と反対に磁化していることを見つけた。

拡大兵庫県の玄武洞。松山基範がここの岩石の残留磁気を測定して現在と逆に磁化していることを見つけた=日比野容子撮影

 残留磁化とは何か。溶岩が固まった岩石には、磁石の性質を示す鉱物が含まれている。この鉱物は、熱いうちは磁石の性質を示さず、冷えた時に磁石になる。岩石が冷えた時点の地球磁場の向きに従い鉱物のN極とS極が決まるため、その当時の地磁気の向きが「化石」として残る。これが残留磁化だが、玄武洞の鉱物のS極は、北向きになっていたのだ。

 松山はその翌月、玄武洞から約30キロ離れた京都府夜久野町(現・福知山市)の岩石を調べた。すると、こではN極が北向きになっていた。不思議に思った松山は、各地の岩石を調べ始めた。秋田、宮城、山形、長崎、熊本、さらに済州島、朝鮮半島、中国東北部まで36カ所、139個の岩石を測定した。残留磁化の方位が現在と同じ向きと反対向きのものにグループ分けすることができた。それらの岩石の年代をあわせて考えた松山は、大胆な説にたどりつく。

常識を覆す新説

  地球の磁場(地磁気)が、現在と逆向きになっていた時代がかつてあり、逆転して現在の向きになった。それだけではない。さらにその前の時代にも逆転したことがある――。

 もちろん当時の常識に反する。

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筆者

瀬川茂子

瀬川茂子(せがわ・しげこ) 朝日新聞記者(科学医療部)

1991年朝日新聞社入社。大阪本社科学医療部次長、アエラ編集部副編集長、編集委員などを務める。共著書に「脳はどこまでわかったか」(朝日選書)、「iPS細胞とはなにか」(講談社ブルーバックス)、「巨大地震の科学と防災」(朝日選書)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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