大胆な国際協力で、最先端の科学を目指す
2017年06月15日
アラブ首長国連邦(UAE)の火星ミッション「EMM」の詳細が正式に発表された。建国50周年に当たる2021年の到着を目指す。そのための打ち上げを三菱重工業のH2Aロケットが受注したニュースが昨年3月に流れたので、記憶にある読者もいると思う。
発表を聞いてまず驚いたのは、本格的な科学探査を目指して、今まで調べられなかった領域を米国の最新鋭機器で調べるということだ。2年前にインドが火星探査機MOMを打ち上げ、火星軌道投入にも成功してデータを取得しているが、科学成果は「最先端」とは言いがたく、国際的な認知も薄い。純国産で火星ミッションを成功させた、という功績の大きさを考えれば、より大きな成果が望めそうな海外機器をあえて載せなかったのも宇宙新興国としては当然の判断だろう。
だが、アラブ首長国連邦の火星ミッションEMMは異なる。米国の最新の火星探査機「MAVEN」(メイブン:2014年打ち上げ)がやりたくても出来なかった部分に焦点を当てて、MAVENよりも5年新しいデザインの観測装置で調べるという。まさに世界最先端をめざす科学ミッションだ。昨年ニュースを聞いて以来、「建国記念なら、どうせ火星に行って写真プラスアルファ程度ですませるのだろう」と勝手に思っていた私が恥ずかしい。考えてみれば、日本の火星探査機「のぞみ」だって、最終的に失敗はしたものの、EMM以上のレベルの世界最先端を目指していたのだから、純国産というくびきから外れた宇宙新興国が「せっかく火星まで行くのだから最先端科学を目指したい」と考えるのは当り前なのだ。
本格的な科学ミッションが可能となる最大の理由は、アラブ首長国連邦が衛星制御とマネージメントに専念することで、鍵となる観測装置を海外に下請け契約で作ってもらう判断をしたためだ。これをパソコンメーカーの生産方式に例えるなら、部品を徹底的に外注して自社はアセンブル(組み立て)に徹するか、内製品や系列の純正部品に限定する国産主義をとるかの違いにあたる。前者の代表は、成長するアップル。後者は衰退した日本のパソコン産業だろう。重要なのは、全体のデザインだ。アップル製品は「Designed by Apple in California. Assembled in China」などと刻印している。どこで組み立てようとアップル製品はカリフォルニア発だ、とする誇らしげな宣言である。
アラブ首長国連邦の宇宙開発は、このアップル型だ。自国の人工衛星をいくつか持っていているものの、衛星本体や観測装置制作の技術は発展途上で、全てを国産でまかなうレベルに達していない。そこで、
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