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国際学会、「質問せーへんかったら罰金 やで!」

尻の重い若手よ、もっと質問しよう

高橋淑子 京都大学教授(動物発生学)

シンガポール大学内のフードコートの様子。多種多様な民族が集まる。著者撮影。
 シンガポールで6月に開催された国際発生生物学会に参加した。4年に一度の大会で、世界各国から発生生物学者が集う。この分野からは過去にノーベル賞受賞者が輩出しており、今回の大会では5人のノーベル賞学者が登壇した。彼らはポロシャツに綿パンなどカジュアルな装いで講演し、若手研究者とも「ごく普通に」ファーストネームで呼び合って議論する姿が印象的だった。日本では、ノーベル賞学者はまるで「神様」扱いだが、これは日本がまだ科学後進国であることを物語る。

 この学会に出るたびに思い出すのは、初めて参加した1985年のロサンゼルス大会のことだ。初めての海外旅行。ロサンゼルス空港に降りたった瞬間、アメリカのとんでもない「でかさ」に圧倒されて立ちすくんでいたことを、今でもはっきりと覚えている。

著者の大学院時代の恩師、故岡田節人先生(おかだときんど、京都大学名誉教授、1927〜2017)。遺族より提供。

 私は大学院生のとき、京都大学の岡田節人(おかだときんど:1927〜2017)教授の研究室でトレーニングを受けた。岡田研究室(オカダケン)には、さまざまな「家訓」があり、皆それを遵守していた。そのひとつに、「学会で質問をしなければ罰金を払う」があった。正確に言うと、「学会で質問せーへんかったら罰金 やでぇ」。もちろん、実際にバッキン を教授に支払った学生はおらず、この家訓を「学会ではしっかり質問してきなさいよ」と理解したことはいうまでもない。質問するためには、講演を必死で聴いて理解しなければならない。家訓の真意はそこにあった。

 家訓は、国際学会であっても容赦なしだった。当時の私はまだまだ駆け出しで、しかも講演が英語だとチンプンカンプン。仕方ないので、前日に要旨集(講演内容のあらましが書いてある)を読んで、誰の講演にどんな質問をするかという対策を練った。よし、がんばろうと講演会場に入る。しかし講演内容がさっぱりわからない。どうやらその人は、要旨に書かれた内容とは少し異なる話をしていたらしい(それに気がつくのにも時間がかかった)。さあ、どうする、うぅ、困った。一人で悶絶していると、後ろから岡田節人先生の「ヨシコ、いけぇ!」の声が飛んできた。

 退路は断たれた、突っ込むしかない。自分が質問している英語がメチャクチャだったことはかすかに覚えている。

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