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予想を裏切る感動大作「ハクソー・リッジ」

戦勝国側が描いた映画から伝わる「戦争に勝者はない」

鈴木達治郎 長崎大学 核兵器廃絶研究センター(RECNA)副センター長・教授

 映画「ハクソー・リッジ」がヒットしている。2017年アカデミー賞の作品賞、監督賞、主演男優賞の3部門で候補、編集賞、録音賞の2部門で受賞した、メル・ギブソン監督の沖縄戦を描いた戦争映画である。ちょうど沖縄戦慰霊の日(6月23日)頃から公開されていたので、慰霊も兼ねての鑑賞であった。愛国心の強いメル・ギブソン監督ということで、米軍賛美の映画かもしれないと覚悟しつつ鑑賞したが、「武器を持たない兵士」の苦悩とその英雄的行動を見事に描いた、予想を裏切る感動大作であった。

強い信仰心と異端児を許容する社会の強さ

 主人公のデスモンド・ドスは実在の人物で、沖縄戦で多くの負傷者を救ったこの物語も実話に基づく。「武器を持たない兵士」という存在自体が驚きであるが、映画の前半はデスモンドがどうして、そのような信念を持つ兵士になったのかを丁寧に描く。

「ハクソー・リッジ」 (c)Cosmos Filmed Entertainment Pty Ltd 2016

 主人公を演じたアンドリュー・ガーフィールド(アカデミー賞主演男優賞候補)は、先日公開された「沈黙」でも、信心深いクリスチャン宣教師を演じていたが、今回のデスモンドにも通じる強い信仰心の持ち主を見事に演じている。この映画が「宗教映画」として見られる可能性があるのも、神の教え(汝、殺すなかれ)に対する、デスモンドの強い信仰心が表れているからだろう。

 しかし、筆者は「武器を持たない兵士」を、最終的には認めた米軍の懐の深さ、そして当初は軽蔑していた兵士たちが、デスモンドの強い信念にもとづく「行動力」に圧倒されていく過程に感動したのである。米国には軍隊といえども、このような「異端児」を最終的には許容する寛容さと強さがある。その寛容さに応えたデスモンドの行動力もすごいが、その迫力に圧倒された米軍猛者たちの、彼に対する「軽蔑」が「尊敬」へと変わっていく過程がこの映画の見どころの一つである。

「戦勝国」から見ても「戦争に勝者はない」

 映画の後半は、激しい沖縄戦が舞台となる。ハクソーリッジ(ノコギリ崖)とよばれる断崖、それを登り切ったところで繰り広げられる、圧倒的軍事力を持つ米軍と日本刀とわずかの銃器で決死隊となって戦う日本軍の悲壮な戦い。火炎放射器の炎に包まれる日本兵、ゲリラ戦で次々に犠牲になる米軍兵士……これまでも戦場の悲惨さを残酷なまでに過剰に描く映画は多く見てきたが、この映画のすごさはその「悲惨さ」が、単に「敗者」にだけ向けられているのではない点だ。

映画の舞台、前田高地を訪れた米海兵隊員たち=5月4日、米軍提供
 沖縄戦で多くの市民が残酷にも犠牲となった描写が少ない点は、日本の立場から見ると確かに物足りない。しかし、敗者にだけ悲惨さが存在していたのではない点を、この映画は見事に描いている。いつ、どこから日本兵に襲われるかわからない恐怖、戦争とはいえ大量の殺戮を繰り返さなければならない苦痛。単に残酷さを描くだけではなく、
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