サステナビリティーのロックスター、環境学者ヨハン・ロックストローム氏に聞く
2017年07月26日
スウェーデン出身の環境学者、ヨハン・ロックストローム氏は、2009年に発表された人類が生存し続けられる限界を示した「プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)」の研究を率いたことで知られる。2015年に写真家とともに出版した一般向けの書「Big World, Small Planet: Abundance within Planetary Boundaries(大きな世界、小さな地球:地球の境界内での豊かさ)」は、世界的なベストセラーになった。米国の著名なジャーナリスト、トーマス・フリードマン氏は「もし、この問題に関する本を1冊しか読む時間がないのなら、『大きな世界 小さな惑星』を強く薦める」と言っている。「サステナビリティー(持続可能性)のロックスター」と呼ばれる由縁だ。
地球は、すでに人類が生きていける限界を越えてしまったのか。2030年に向けて世界が取り組む国連の持続可能な開発目標(SDGs)や温暖化防止のためのパリ協定によって世界は破滅の道を脱することができるのか。トランプ米大統領の誕生によって開きかけた未来への扉は閉ざされてしまうのか……。ロックストローム氏に聞いた。(この項つづく)
ヨハン・ロックストローム Johan Rockstrom ストックホルム・レジリエンス・センター所長で、ストックホルム大学の環境科学(水資源、地球の持続可能性)の教授。2004~12年にはストックホルム環境研究所所長を務めていた。2009年には、20人以上の様々な分野の研究者を率いて、人類が地球システムに与えている圧力の限界値についての枠組みを示した論文「プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)」を発表。論文は反響を呼び、学術界を超えて世界に影響を与えた。いくつかの政府や国際機関、ビジネス界のアドバイザーとしても活躍、数多くの科学論文や一般向けの著書を執筆している。2015年にコスモス国際賞を受賞している。
プラネタリー・バウンダリー planetary boundaries 「気候変動」「新物質の排出」「成層圏オゾンの破壊」「大気エーロゾル(浮遊粒子状物質)の負荷」「海洋酸性化」「窒素とリンの循環」「淡水の利用」「土地利用の変化」「生物多様性(遺伝的多様性、機能的多様性)の喪失」という地球の主要な九つのシステムについて、人類が与えている影響によって回復可能な限界を示した考え方。影響が大きすぎて限界を超えると、不可逆的で壊滅的な変化が起き、人類の生存を脅かす可能性がある。気候変動、生物多様性、窒素・リンの循環、土地利用の変化については、すでに限界点を超えたことが示されている。
――プラネタリー・バウンダリーでは、人類の生存を脅かす要素を9項目に分けています。
地球が居住に適しているかどうかを示す科学的な定義が、プラネタリー・バウンダリーです。九つの項目は、非常に密接に相互作用し、地球の安定性を保つために寄与しています。私たちはそれらをグループ化しました。
――それぞれ重要な項目で、お互いに関連しているということですね。
9項目つは三つのカテゴリーに分類できます。第1のカテゴリーは、私たちが「ビッグスリー」と呼んでいるもので、気候システム、海洋システム、成層圏オゾン層が入ります。それらは完全に交じり合っていて、地球規模で動いています。成層圏のオゾン層は危険な紫外線から地球を守っています。それらビッグスリーが地球レベルで作用していることについては、とても強固な科学的な証拠があります。
第2のカテゴリーは、私たちが「遅い変数」と呼んでいるものです。地球システムを安定した状態に保つために、四つの遅い変数があります。生物圏の完全性(生物多様性)、土地利用の変化、淡水の利用、窒素とリンの循環です。四つは、大気圏や成層圏ではなく、海洋や陸地という生物圏にあり、一緒に作用して地球の状態を決定します。それらは、炭素と熱を吸収するか、排出しています。
第3のカテゴリーは、人工物や新物質です。それらは、地球上に存在したことはなく、自然物ではありません。人間によって化学的に作られたので、生物圏には存在しなかった。もし、それらが過度に蓄積されれば、人間や生物種に遺伝的変化を引き起こします。エーロゾル負荷は、人間がつくりだした大気汚染です。過度に積み上げた大気中の黒色炭素や硫酸塩、硝酸塩などの物質は、太陽光の遮断や生物循環の変化を引き起こします。
――プラネタリー・バウンダリーの9項目の中に優先順位はあるのですか。
安定した地球システムのためには、基本的に九つのすべてが、安全な作業スペースの限界内にある必要があります。例えば、気候は限界を逸脱しています。気候は、ほかのすべての限界に影響を与えます。生物多様性や土地利用、水利用はより不安定になります。それらはお互いに依存しています。「1人はみんなのために、みんなは1人のために」です。
9項目から、より根本的な二つを選ぶとすれば、
有料会員の方はログインページに進み、デジタル版のIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞社の言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください