軍学共同への歯止めとなるために
2017年08月08日
去る7月7日、国連会議において核兵器禁止条約が122か国の賛成の下で採択された。この採択は核兵器廃絶運動への重要な里程標になることは確実であろうが、これを契機にして軍学共同が進展しつつある日本の動きに幾分かでもブレーキがかかれば、と願っている。というのは、軍学共同が行き着く先は核兵器の保有・使用の解禁であり、核兵器廃絶の世界の動きと真っ向から逆行することになることが認識されれば、大学や研究機関で行われつつある軍事研究に対して少しでも歯止めにならないかと期待しているからである。
1946年の国連第1号決議は、原子兵器禁止を目指した核軍縮が国連の最優先目標であると確認したものであった。人類は、いったん獲得した軍事に関する知識を、その非人道性を十分に知りながら手放すことがなく、むしろよりいっそう洗練させ、よりいっそう残虐な武器とすることに努めて来た。事実、1972年に生物兵器禁止条約、1993年に化学兵器禁止条約が国連で採択されたが、今なおそれらは生産されており、ごく最近化学兵器がシリアで使われたという報道があった。
これに対し、核兵器に反対する世界の世論によって、1970年に国連軍縮総会においてNPT(核不拡散条約)が採択され、「誠実に核軍縮交渉を行なう義務(第6条)」が規定されたのだが、核抑止論を盾にして核兵器保有国はこれに応じてこなかった。NPT再検討会議が何回も開催されたのだが何ら進展がないことに業を煮やし、核兵器保有国抜きにしてでも核兵器を禁止する条約を結び、それを交渉の土台に据えて核廃絶を実現することを目指す方向が確認され、ついに核兵器禁止条約が国連会議で採択されたのである。
この条約の前文では、核兵器の非人道性を厳しく告発するとともに、国連憲章や国際人道法に照らして違法であることが明確に述べられており、現時点において最良の内容であると言える。また「ヒバクシャ」という言葉が二度まで使われ、核兵器が被爆者にもたらした「容認しがたい苦難と損害」を厳しく糾弾するとともに、赤十字や非政府組織等と力を合わせて核兵器のない世界を創造する「市民的良心の役割」を実践してきたことを高く評価している。
さらに条約第1条で、核兵器の「開発、実験、生産、製造、取得、保有、貯蔵、移転」とともに「使用、使用の威嚇」を禁止していることは注目すべきだろう。核兵器の所有に関わる禁止項目を全て明示することはもとより、いっそう重要な点は議論の途中で提起された「使用の威嚇」をきちんと書き込んだことである。核の脅しによって支配を正当化する核抑止論を否定した画期的な取り決めと言えるからだ。
他にも、ここに挙げた項目を「援助し、奨励又は勧誘」すること、他国の核兵器を自国の領土に「配置、設置、配備を許可」することも禁止することが謳われており、全面的に核兵器を禁止する内容となっている。
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