勉強不足? したたか? パリ協定から離脱の真意はどこに
2017年08月18日
2017年6月1日、米国トランプ大統領は気候変動枠組み条約のパリ協定から離脱方針を発表した。オバマ政権下の米国を始め、世界159カ国が既に加盟書を寄せていて(2017年8月現在)、パリ協定はとっくに発効している。そこからの脱退には諸手続きと時間の経過が必要になっていて、米国が協定加入国の地位を失うのは2020年11月ごろになると予想されている。
このことの環境や経済に及ぼす影響を占ってみよう。
まず、環境的な影響である。中国は、世界第2の経済大国にのし上がり、CO2で見ても世界第一の排出国になった。米国は、こうした中国における対策の不十分さを頭に置くと、生真面目に温暖化対策を取った場合に経済的な不利益が生じることを、脱退方針決定の背景理由として挙げている。このことから、心配されることは二つある。
一つは、米国の離脱が、今度は逆に中国から見た場合の不公平感を強め、中国の離脱をもたらすといった形で、対策を手抜きする負の連鎖を世界に生むことである。
もう一つは、世界第2の排出国の米国の問題である。目標を失った米国で、環境対策の手抜きが進んでしまい、結果的に世界のCO2排出量減少の足を引っ張るのではないか、という懸念である。
米国内の様子はどうだろうか。トランプ政権は、石炭火力発電所の環境規制強化が余分な費用を発生させ、米国製品の価格を高くし、産業の競争力をそぐ、と考えている。このため、連邦環境保護庁(EPA)がオバマ政権下で進めた連邦清浄大気法による石炭火力発電所の規制の廃止手続きを進めている。
他方で、数多くの州政府が、企業に対する排出枠設定と排出量取引制度の導入などを含め、独自の地球温暖化対策を進めており、その流れは、連邦政府の動きにかかわらず、むしろ強くなっている印象さえ受ける。
振り返ってみると、もともと、連邦清浄大気法による石炭火力規制は、州が進めるのを基本とし、州が規制をしない時に連邦が規制をするという構成であり、規制を行う気持ちのない州は、これまでも裁判闘争などを進めていた。それを考えれば、連邦規制が取り消されたからといって、結果的にはあまり変化が起きない、と見るのが正当であろう。
なぜ、米国の離脱によって、世界も、米国も、ブレを生じないのだろうか。
それは、温暖化対策と経済との関係に対する見方が大きく変化したことに起因するのではないか、と筆者は思っている。
温暖化対策、すなわち省エネ対策や再生可能エネルギーの積極活用が、ビジネス的にも利益を生み、また、マクロ経済的にも、各国それぞれの有利な付加価値の源泉になり、雇用も増やす、といったことが明らかになってきて、人々、特に為政者や産業リーダーの意識が変わってきたのではないか。
そうしたことを論者が実感したのは、パリ協定に向けて国際コンセンサスづくりを進めるべく、議長国フランスが数多く催した、金融関係の会議においてであった。これらの会議では、温暖化対策がマネーへの実需を生むとして心底歓迎されていたのである。
トランプ大統領が、心底、地球は温暖化していず、対策は必要ないと思っていたら、パリ協定の親に当たる気候変動枠組み条約から脱退してしまう選択も、彼にはあった。
そちらの方こそ、地球気候保全のための一切の国際的な義務を逃れる道である。そして、義務を逃れるのに要する時間も短い、とも聞く。しかし、そうしなかった。そこには、気候変動枠組み条約が、共和党のパパ・ブッシュ大統領のレガシーなので、否定しにくかったこともあったろうが、実は、したたかに、
有料会員の方はログインページに進み、デジタル版のIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞社の言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください