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ジュゴン訴訟「差し戻し」の重要性

「高度に政治的な問題」として連邦地裁は判断を避けたが…

桜井国俊 沖縄大学名誉教授、沖縄環境ネットワーク世話人

 筆者は、オール沖縄第二次訪米団(第一次は2017年1月)の一員として、8月16日から22日までカリフォルニア州を訪問し、(1)辺野古の海と大浦湾を埋め立てる米海兵隊の巨大な辺野古新基地建設の中止、(2)世界自然遺産級“やんばる”の沖縄北部自然林での新たな6ヶ所のヘリパッド建設と運用の中止、(3)世界一危険な普天間飛行場の直ちに閉鎖・返還を求める要請行動を行った。

米軍普天間飛行場の移設が計画されている沖縄県の辺野古沖=2017年4月、朝日新聞社ヘリから

 日本政府・米国政府合作の辺野古・高江の基地建設とその使用は、沖縄の生活環境・自然環境を取り返しのつかないまでに破壊する。それを黙認することは、環境正義の観点から許されないということを、心ある米国市民に訴えたいと考えたからである。

 訪米の成果はいろいろあるが紙幅の関係で割愛し、ここでは米ジュゴン訴訟差し戻しの意義について触れることとする。訪米中の8月22日に筆者らは米ジュゴン訴訟の筆頭原告であるCBD(Center for Biological Diversity、生物多様性センター)のオフィスを訪ね、ジュゴン訴訟の進め方について意見交換することとなっていたが、まさにその前日の8月21日にジュゴン訴訟差し戻しの報に接したのである。

ジュゴン訴訟の経緯

 ジュゴン訴訟は、日米の環境保護団体やジュゴン自身が原告となり、米国防総省を相手に、辺野古を埋め立てる基地建設は米文化財保護法(NHPA)に違反するとしてジュゴンの保護を求め14年前の2003年9月にサンフランシスコ連邦地裁に提訴したものである。

 2008年1月には、ジュゴンへの悪影響の回避・軽減を「考慮する」手続きをとるように国防総省へ命じる判決が出されたが、2012年2月には裁判を休止する決定がなされる。日本の環境アセスが継続中であることや、民主党政権下で辺野古における代替施設建設の進展が「明確というにはほど遠い状態にある」ためとの判断であった。

辺野古崎から北東に約5、6キロの海域に姿を現したジュゴン=2010年7月、朝日新聞社ヘリから

 2014年、国防総省は08年判決に応えて日本の辺野古環境アセスを基にした報告書の完成を裁判所に通知し、これに対し原告団はジュゴン保護の考慮について原告らと協議していないのはNHPA違反であるとして工事の中断を追加申し立てする。こうした経緯を経て連邦地裁は2014年12月に審問を開き、双方の意見を聴取し、「今後本件審理に入るか決定する」とした。

 そして翌2015年2月、連邦地裁は「外交問題である基地工事の中断を命じる法的権限(jurisdiction)は裁判所にはない」として、原告側の申し立てを却下したのである。原告団はこれを不服として2015年4月に第9巡回区控訴裁判所に控訴し、本年2017年3月15日に控訴審が結審した。

 その後、前述のように8月21日に控訴審の判決が出た。第9巡回区控訴裁判所は、連邦地裁の判決を覆し、「原告の請求は政治的でない」「原告には訴訟を起こす資格(原告適格)がある」として、連邦地裁に差し戻す判断を下したのである。

三権分立の重要性

 控訴審判決を読むと、最大の論点はジュゴン訴訟を裁く権限が裁判所にあるか否かという点であり、

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