米山正寛(よねやま・まさひろ) ナチュラリスト
自然史科学や農林水産技術などへ関心を寄せるナチュラリスト(修行中)。朝日新聞社で科学記者として取材と執筆に当たったほか、「科学朝日」や「サイアス」の編集部員、公益財団法人森林文化協会「グリーン・パワー」編集長などを務めて2022年春に退社。東北地方に生活の拠点を構えながら、自然との語らいを続けていく。自然豊かな各地へいざなってくれる鉄道のファンでもある。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
世界で唯一の群生地を守り続けたい
マリモが北海道・阿寒湖で見つかって、今年で120年になる。マリモと聞くと私たちは丸い姿を思い浮かべるが、北半球に分布するマリモの中で美しい球状になるのは、今では阿寒湖の群生地に育つものしかないそうだ。阿寒湖の自然環境が創り出す球状マリモを守り続けることは、日本に暮らす私たちの責務と言っても過言ではないだろう。
マリモは、アオミドロなどと近縁な淡水生の緑藻類である。多くは細長い糸のような姿(糸状体)で、湖底に付着したり水中に浮遊したりして生活している。その存在は阿寒湖で見つかる前から知られており、「分類学の祖」であるカール・フォン・リンネが1753年に学名をつけて発表した。北海道や本州という日本国内のみならず、ヨーロッパや北アメリカなど北半球の広い地域で見つかっており、おそらくマリモを食べるハクチョウなどの水鳥が各地に運んで広がったと考えられている。
阿寒湖の球状マリモは120年前の1897年8月23日、札幌農学校(当時)の学生だった川上瀧彌によって発見された。マリモの糸状体が密に集合して形成される球状マリモは、大きいものでは直径30cm以上にもなる。以前は海外にもいくつか球状マリモの群生地が知られていたが、最近になって水質の悪化などが原因でアイスランドのミーバントン湖でも群生が見られなくなってしまい、今なお群生が見られるのは世界で阿寒湖だけになってしまった。
ではなぜ、マリモは丸くなるのだろうか。18世紀以来200年以上の歳月の中で多くの科学者がその謎に挑んだが、湖底での観察が難しいこともあって、はっきりしたことはなかなか分かってこなかった。
阿寒湖では、釧路市教育委員会マリモ研究室の若菜勇室長を中心に研究がなされてきた。そして、NHKや北見工業大学などと共同で湖底にカメラを長期間設置して観察を続け、北岸のチュウルイ湾の群生地に育つ球状マリモが、
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