研究者の「国際流動性」を高めよう
2017年09月15日
英国のTimes Higher Education (THE) が9月5日に発表した「世界大学ランキング」の結果に、衝撃が広がっている。東大46位、京大74位と、アジア1位も程遠い状況になっている。1年前に筆者が論じた状況(拙稿「日本の大学の世界ランクはなぜ落ちる一方なのか」)が、悪化の一途をたどっている。
文部科学省は8月1日に、「科学技術・学術分野の国際展開について—我が国の国際競争力の向上に向けて—」を公表した。「科学技術・学術分野における国際的な展開に関するタスクフォース」の報告書である。トップ10%論文の国際シェアの低下や、日本の研究者の国際流動性不足などについての議論をまとめている。「我が国の科学研究が、この10年で失速し、科学エリートの地位が脅かされていると述べている。
主要国におけるここ10年のトップ10%論文数について国際比較を行うと、中国からの論文数の急激な増加の他、欧米でも、EU各国の地理的近接性、国際共同研究を促進するEUのファンドなどを背景とし、米国を中心として、国際共著論文数を大幅に増加させている。一方、ネイチャー誌でも指摘されたように、我が国の論文数の伸びは停滞し、2003年~2013年の間に、国際的なシェアは5.7%から3.3%に、順位は4位から7位に低下し、日本の存在感は顕著に低下している。また、国際共著の論文数や割合も小さく、イギリス、ドイツの国際共著論文数は日本の約3倍、フランスは日本の約2倍で、日本の研究の国際化は、欧米先進国に後れをとっている。
このように、各国と米国の研究者との間の国際共著論文が、この10年余りで急速に増えているのに対し、日本の研究者の論文数の増加は少なく、国際共著論文の増加も少ない。
中国からは、かなり前から、膨大な数の学生や研究者が米国に渡って、博士の学位を取得したり、米国での研究の一翼を担ったりしている。その人たちの多くが、近年、高給で中国の大学や研究機関に迎え入れられ、中国での高等教育や研究活動を担っている。その人たちは、米国内の研究者との密接な人間関係を持っている。同様なことが、韓国と米国の間でも起き始めている。
筆者が関係している人工知能(AI)を含め、近年の科学技術は、多くの分野で、複雑化と大規模化が著しく進み、一人の研究者でできることは少なくなっている。このため、多数の研究者が迅速に知恵を出し合い、アイディアや実験結果を迅速に交換できることが、進歩に貢献するための極めて重要なカギになっている。特にAI分野では、深層ニューラルネットワーク(DNN)の大規模化、複雑化により、大規模データを用いた実験結果の共有が重要になっている。
3か月前にはこんなことをやっていたのかと思うほど、技術は日々進歩しており、良い研究成果が出れば、国際会議などで発表する前に、米国コーネル大学図書館が運営しているarXiv(アーカイブ)などのインターネット上のウェブサイトに投稿して、情報交換するのが普通になっている。国際会議で発表されるときには、技術はすでにその先に進んでしまっている。ウェブサイトで公開された情報を他の研究者が見て、研究内容を評価し、同時に公開されるソフトウェアや、公開されているデータベースを用いて、その方法を試してみることができる。もし疑問の点があれば、直接研究者に問い合わせたり、集まって議論をしたりする。
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