日本も参加する欧州国際プロジェクト、中国の後塵は拝したくない
2017年09月14日
次世代電離層レーダーとして世界最先端の技術と100億円以上の建設費をつぎ込むEISCAT_3D(欧州非共鳴散乱レーダー3次元型)の起工式が、9月7日に行なわれた。高度10km程度から500km以上までの上空を3つの異なる角度から立体的に調べるレーダー施設で、30年以上も前から稼働してきたパラボナアンテナ式の立体観測システム「EISCAT」を更新するものだ。
EISCAT_3Dはノルウェー・スウェーデン・フィンランドの北極圏内の各拠点に約1万本ずつ、シンプルなアンテナをマルチアレイ方式で並べて、電離層を中心に下は成層圏から上は外気圏まで広範な高度範囲の大気を調べるレーダー施設だ。電離層最上部に位置する外気圏は、空気を構成する分子・原子が宇宙に向かって蒸発しており、いわば大気の表面から一歩真空に踏み出した場所にあたる。
3地点からの観測で、電離層を立体的に調べられるのだが、それが「3D」を冠する理由ではない。それは既にパラボラアンテナを使った現行のEISCATで、図のように実現しているからだ。そして、それだけでも実は世界唯一の施設なのである。
そもそも、電離層を含む超高層大気観測のための大型レーダーは世界にそれほど多くなく、オーロラ現象などユニークな活動の盛んな北緯60-70度の「オーロラ帯」上空を調べる施設となると、EISCAT以外では2カ所しかない。それを3点立体観測で調べてきたのだから、欧州を超えた国際プロジェクトになるのは当然だろう。その先陣を切ったのが20年前から正式メンバーとして参加している日本だ。中国も日本に遅れて正式メンバーとなった。ロシアも協賛メンバーとして参加している。
ちなみに日本と中国は、参加に当たって、観測の空白地域だった北緯78度の島にEISCATの4個目と5個目のパラポラアンテナをそれぞれ建造している。そこでは、普通のオーロラの代わりに特別なオーロラのみが出る。これらのアンテナは、今回の更新では手を付けず、今まで通りに運用する。ターンスタイル・アンテナに置き換えるのは、より低緯度の北緯68-69度に位置する本土内の初代アンテナ群だ。
3次元の動画的モニターはある意味全ての地球科学の夢である。例えば豪雨があった時に、その豪雨を起こした雲が前線に沿って移動してきたのか、それとも入道雲のようにその場で発達したのか、あるいは移動の際に急速に発達してきたのか、豪雨のあった場所だけを調べてもわからない。純粋な時間変化と「空間構造の移動」を判別するには3次元の同時把握が不可欠だ。EISCAT_3Dでは、地表付近の状態の代わりに、上空大気の状態を調べる。例えば、オーロラによる電子密度の変化が、オーロラの強度の変化によるものなのか、それもとオーロラという筋構造が横に移動して、観測箇所を通過しただけなのか、判別できるようになる。
他にも、オーロラを起こす高エネルギー電子が大気との衝突で届かないとされる高さ、例えば中間圏で起こっている現象のどれが高エネルギー電子による間接的な影響なのかなど、異なる領域同士での相関も分かるのである。異なる高さでの「領域間結合」は地球科学の重要な問題の一つであり、例えばマントルの動きが大陸を動かし、山をつくり、ひいてはそれは気候を左右しているのも、領域間結合の問題だ。それが上層大気では双方向に非常に短い時間で起こる。
一般の人に関係ある話でいえば、地上から高度10kmまで身近な大気現象や落雷現象、地球の温暖化と、高度80km以上の電離層現象とがどのように関係しているか、という問題がある。地球温暖化問題では、二酸化炭素などの温室効果ガスが強く作用していることが知られるが、
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