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福島事故による放射性ヨウ素被ばくは多くない

「データが不十分で被ばく量はわからない」という主張は間違いだ

高橋真理子 ジャーナリスト、元朝日新聞科学コーディネーター

 東京電力福島第一原発事故の後に子どもの甲状腺がんが多数見つかっている。チェルノブイリでは放射性ヨウ素のせいで子どもの甲状腺がんが増えた。だが、福島で見つかっている甲状腺がんは「放射線の影響とは考えにくい」というのが福島県の検討委員会の評価である。それに納得できない人は少なくなく、異議を唱える専門家もいる。病気の原因の判定は難しい問題だと思うが、事故から6年以上たち、被ばく量がチェルノブイリより桁違いに小さかったことは明確になっている。これは、「原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)」をはじめ信頼できる多くの組織の報告書に書いてある。それなのに「データが不十分なので、よくわからない」という主張がいまだにあることに驚く。納得するかどうかは、すぐれて個人的なことだけれど、少なくとも被ばく量が桁違いに少なかったという事実はすべての人に認識してほしいと思う。

原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)の2016年白書について、資料を持って説明するマルコム・クリック事務局長(右端)=2016年11月17日、会津若松市、奥山輝撮影

 原発が事故を起こすと、さまざまな放射性物質が大気中に出てくる。その中で甲状腺に悪影響を及ぼすのはヨウ素131で、食べ物や空気から体内に入るとどんどん甲状腺に集まって、そこで放射線を出して細胞を傷つける。ヨウ素131は半減期が8日と短く、短期間でなくなってしまうので、正確な被ばく量を知るには事故後のなるべく早い時期に甲状腺に器械を当てて放射線量を測らなければならない。

 福島では、事故直後の3月下旬に飯舘村、川俣村、いわき市の15歳以下1080人に甲状腺の簡易測定調査が行われた。この結果をもとに推定された甲状腺等価線量(被ばく量のこと)はほとんどが30ミリシーベルト以下で、50ミリシーベルトを超えたのは0.2%に過ぎなかった。

 この調査に対し、医学博士の崎山比早子氏は「わずか1080人であり、しかもその測定場所の線量が高く、衣服などについた線量を差し引くと被ばく線量がマイナスになる個人もあり、信頼できるものではなかったことは環境省『東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議』でも委員から指摘されている(注5)」(WEBRONZA2017年3月17日「深刻化する甲状腺がんの多発」)と主張する。しかし、「(注5)」で示されたサイトを見てみると、「個々人の衣服表面でバックグラウンド(以下「BG」)を測って甲状腺の測定値から差し引いた正味値を被ばく線量(Sv)とするには甲状腺からの放射線と衣服のBGとの区別がつかないため精度の問題がある。しかし、基準値の0.2μSv/hを超える被ばくはいなかったとは言える」という説明が、「委員の主なコメント」として掲載されているだけだ。「精度は高くない」と認めているが、「信頼できるものではなかった」と切り捨てるようなことはしていない。「不確実性についてはその幅を定量化して見ていくことも重要。全身スクリーニングのデータが初期の頃のものが残っているのであれば、目安に使える」というコメントもあり、初期のデータはたとえ不完全でも目安にはなるという考え方であることがわかる。

 崎山氏は「チェルノブイリ原発事故後ウクライナでは約13万人、ベラルーシでは約4万人の幼児、青少年の被ばく調査を行って」いるのに対し、1080人は「桁違いに少ない」ことも指摘して、「初期被ばく線量が低かったとする根拠は薄弱である」と結論づける。確かに薄弱かもしれない。しかし、薄弱であろうと「低かった」とする根拠はあるのだ。それに対し、初期被ばく線量が「高かった」という根拠は一つもない。

 そもそも被ばく線量の正確な測定は

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