須藤靖(すとう・やすし) 東京大学教授(宇宙物理学)
東京大学大学院理学系研究科物理学専攻教授。1958年高知県安芸市生まれ。主な研究分野は観測的宇宙論と太陽系外惑星。著書に、『人生一般二相対論』(東京大学出版会)、『一般相対論入門』(日本評論社)、『この空のかなた』(亜紀書房)、『情けは宇宙のためならず』(毎日新聞社)、『不自然な宇宙』(講談社ブルーバックス)、『宇宙は数式でできている』(朝日新聞出版)などがある。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
物理法則に矛盾しない現象は、宇宙のどこかに実在し、やがて観測できる
米国の重力波実験LIGO(ライゴ)は2015年9月14日に人類史上初の重力波直接検出に成功し、その直後からノーベル物理学賞確実と目されてきた。事実、2017年のノーベル物理学賞は、LIGO検出器での重力波観測に決定的な貢献をしたマサチューセッツ工科大のレイナー・ワイス名誉教授、カリフォルニア工科大のバリー・バリッシュ名誉教授とキップ・ソーン名誉教授の3名に授与されたことは記憶に新しい。今回は、予想が困難なノーベル賞の歴史においてもおそらく稀有な、本命中の本命の受賞だったと言える。
この最初の発見(その検出年月日に対応して「GW150914」と呼ばれる、以下同様)は、連星ブラックホールの合体に伴うものだったが、その後も2015年12月26日、2017年1月4日、8月14日の3回、連星ブラックホールからの重力波が相次いで検出された。この4回の結果は、「GW150914」が29+36=62、「GW151226」が14+8=21、「GW170104」が31+19=49、そして「GW170814」が31+25=53と要約できる。
これらは例えば、2015年9月14日に検出されたイベントが、太陽質量の29倍と36倍の二つのブラックホールからなる系の合体によって62倍のブラックホールになり、その差に対応する太陽質量の3倍もの膨大なエネルギーが重力波として放出されたことを示している。特にGW170814は、ヨーロッパで稼働を始めたばかりのVirgo(ヴァーゴ)でも同時に検出された。おかげでLIGOだけの場合に比べ、格段に高い精度で重力波到来方向の推定が可能となった。
ところで、重力波の初検出自体もさることながら、それらが大質量ブラックホール連星の実在を証明したこともまた、驚き以外の何物でもない。その意味では、これらの発見はノーベル賞2個分に値するとも言える。ただ残念ながらブラックホールの宿命というべきか、重力波以外の電磁波での信号は検出されておらず、天文学全体へのインパクトはまだ弱かった。
このような歴史的な発見に対してわがままな文句をつけるのもどうかとは思うのだが、なんとそれを払拭してくれる大発見が、日本時間の10月16日午後11時に発表された。連星中性子星の合体にともなう重力波イベント「GW170817」である。
これが過去4回の連星ブラックホールからの重力波の発見とどのように異なる意義を持つのか。簡単にまとめておこう。
このように、すでに現時点においてですら、今回の発見は、天文学における永年の謎の解明に大きな威力を発揮した。それらの解明の先には、さらなる新たな謎が見えてくるであろう。まさに、新たな天文学が今始まったのである。
ところで、今回の連星中性子星の重力波検出で極めて重要な貢献をした一人が、東京大学ビッグバン宇宙国際研究センターの