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東京モーターショーが描く「ちぐはぐな未来像」

自動車メーカーが演出する華やかな夢と、利用者が求める素朴な安全性と

伊藤隆太郎 朝日新聞記者(科学医療部)

 重さ1トンもある鉄の塊を、時速60キロや100キロの猛スピードで操る。車を運転するとは、そんな恐ろしい行為だ。文芸評論家の小谷野敦は「この世には、バイクとか車とかであちこち走りまわる、ということにむやみに興奮する連中がいる」と驚いている。歌人の枡野浩一も「私も最近まで『車の運転に快感を覚える人がいる』ということが全然わかっていなかった」と述べている。

 共感する人は多いだろう。自分も記者生活で地方勤務を命ぜられると、取材のために車の運転から逃れられず、憂鬱の種だった。本社に戻って地下鉄やバスを使えるようになると、心底からホッとしたものだ。

 もしも100年後の未来から現代を振り返ったなら、「人はかつて、車というものを運転していたのだ」と、驚嘆の念に震えるかもしれない。そんな妄想に、東京・台場でとらわれた。明日28日から、ここで東京モーターショーが一般公開される。東京国際展示場の会場全体から映し出されるのは、やがて訪れるという「自動運転」の未来像だ。

自動運転技術をメーカー各社が全面展開

 夢みたいな技術が、もう目前にあるらしい。どの展示ブースも、自動運転技術の素晴らしさを全面に打ち出している。華やかであること限りなく、目眩でくらくらするほどだ。でもなぜ、やたらと肌を露出させた女性が大勢いるの?(わかりません)。

 一般公開に先立って、25日に「プレスデー」が開かれた。報道陣向けにプレスブリーフィングが組まれ、朝8時半からきっちり15分きざみで自動車メーカー各社が次々と概要説明をしてくれる。記者たちはブースを巡回しながら、連続してブリーフィングを受けられる便利なしくみだ。すべての説明を聞けば、午後4時過ぎまで1分たりとも休息の余裕はない。は〜ぁ、自動車市場は広大です。

拡大東京モーターショーの会場で

 トヨタ自動車は、人工知能が運転手の状態を自動的に読み取って学習するという「CONCEPT-愛i」を発表した。ディディエ・ルロワ副社長は「人工知能は私たちのパートナーとなる存在だ。事故のリスクを解消し、運転に集中させてくれる」と述べた。自動運転技術を搭載したレクサスの試作車も初公開。コンセプトカー「LS+Concept」は、2020年の実用化を見すえているという。

 三菱自動車も人工知能を載せたSUVの試作車を披露した。益子修CEOは「自動運転技術にさらに磨きをかけ、今までできなかった体験を可能にする」と宣言。日産自動車が発表したのは、運転者がハンドル操作などを一切しない完全自動運転のコンセプトカー「ニッサン IMx」だ。登壇したダニエル・スキラッチ副社長は派手なイメージ動画を披露したのち、「自動運転にするか、自分で運転をするか、ドライバーが選べる」と説明した。

ハンドルが消えて車内はサロン風に

 その動画に描かれた華麗な未来像は、まるでSF映画そのもの。自動運転モードに切り替えると、目の前にあったハンドルが格納されて消え去り、車内はしっとりと落ち着いた広い空間に変身する。マニュアル運転に戻すと、今度は人工知能が活躍して、運転者の健康状態まで把握しながら快適な運転をサポートするそうだ。

拡大東京モーターショーの会場で
 こんな使い方をスキラッチ副社長が提案した。「飛行機に乗るため、空港まで車で行く。車が空港に着くと、車は自動運転で家へと帰る。帰国すると、車が自動運転で迎えに来ている」。 ・・・ログインして読む
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筆者

伊藤隆太郎

伊藤隆太郎(いとう・りゅうたろう) 朝日新聞記者(科学医療部)

1964年、北九州市生まれ。1989年、朝日新聞社に入社。筑豊支局、西部社会部、AERA編集部などを経て、2016年から科学医療部。

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