ドキュメンタリー映画「不都合な真実2」が映す未来への希望
2017年11月10日
「ヒーロー企業にならないか?」
国連の気候変動交渉COP21が開催されているパリから、アル・ゴア元米副大統領が電話をかけ、アメリカの太陽光発電企業ソーラーシティのリンドン・ライブCEOをこんなふうに口説く。交渉で態度の固いインドを軟化させるため、ソーラーシティの太陽光発電技術をインドへ無償提供することを提案するシーンである。
ドキュメンタリー映画「不都合な真実2 放置された地球」が11月17日、日本で公開される。試写を見ながら筆者の脳裏に浮かんだのは、有名な「沈没船ジョーク」だ。
沈没船の船長が、乗客に海に飛び込むよう説得してまわる。まずアメリカ人のところに行き、「ヒーローになりたければ飛び込んでほしい」というとアメリカ人は飛び込む。ゴアのセリフは、可笑しいくらいこれとそっくりだ。ちなみにこのジョークは、イギリス人には「紳士ならば飛び込んでほしい」、ドイツ人には「これは規則だから飛び込んでほしい」という具合に続く。各国の国民性を皮肉っているのである。
映画は、2006年に上映された「不都合な真実」の続編であり、前作に続き、アメリカ元副大統領のアル・ゴアが気候変動問題に立ち向かうために世界を変えようと奮闘する姿を描いたドキュメンタリーである。
アル・ゴアは世界各地で講演活動を行い、この問題について人々にわかりやすく語るとともに、一緒に活動する人々を育て、「産業活動に伴う気候の変化が人類に深刻な悪影響をもたらす」という「真実」を「不都合」に思う人たちと戦ってきた。その戦いの歴史を振り返ってみると、あまりの浮き沈みの連続に改めてこの問題の困難さを実感できる。
20年前の1997年。京都で行われていた国連気候変動枠組条約の第3回締約国会議(COP3)に、当時アメリカ副大統領だったゴアが乗り込み、京都議定書の交渉を政治決着させた。ゴアのこの問題における最初の栄光の瞬間といえるだろう。
2000年、アメリカ大統領選の民主党候補になったゴアは、共和党候補のブッシュに僅差で敗れる(本当は勝っていたなどの話があるが、公式には敗北であることに変わりない)。ブッシュはアメリカ経済への悪影響を理由に京都議定書の批准を拒否。ゴアと気候変動政策にとっての大きな敗北となった。
2006年、政治家を引退して講演活動を続けていたゴアは、映画「不都合な真実」のスクリーンで人々の前に再び現れる。映画はアカデミー賞を受賞し、翌2007年にゴアは「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)とともにノーベル平和賞を受賞。この映画の効果で世界中の多くの人々が気候変動問題の認識を深めた。再び訪れたゴアの栄光である。(ただし、ゴアの影響でアメリカ国内においては気候変動政策が「リベラルのアジェンダ」とみなされ、社会における保守とリベラルの分断を深めたという批判もある)。
2008年には気候変動政策に積極的なオバマ大統領が誕生。2009年に京都議定書の次の枠組づくりを目指すコペンハーゲンでのCOP15に臨むが(日本では民主党政権が誕生し、鳩山首相が出席)、交渉は失敗におわる。ゴアに目立った出番は無かったが、世界の気候変動政策にとっては再び大きな挫折となった。
しかし、その後のCOPでも粘り強い議論が続けられ、仕切り直しとなった新しい枠組づくりの大舞台となったのが2015年、パリでのCOP21だ。ここで国際社会は歴史的なパリ協定の合意に成功する。パリ協定では、すべての国が対策に参加する形で、長期目標として世界の温室効果ガス排出量を今世紀中に正味でゼロにすること(本質的には「脱化石燃料」といってもよい)に合意したのだ。映画で描かれているように、ゴアにとっても三度目の栄光の瞬間である。
そして現在、アメリカではトランプ大統領が誕生し、パリ協定の離脱を表明した。国際的にはパリ協定の求心力が維持されているが、アメリカ国内においては、三度目の挫折の真っ只中といえるかもしれない。なんという目まぐるしさだろうか。
しかし、これらの激しい浮き沈みの裏側で、変わらずに進行していた世界の変化が少なくとも3つあった。そのどれもが、パリ協定の合意をもたらした背景として重要なものだ。
二つめは、気候変動の進行と悪影響の発現である。大気中二酸化炭素濃度は増加の一途をたどり、2014年、2015年には世界平均気温が最高記録を顕著に更新した。アメリカでは2012年にニューヨークとニュージャージーを襲ったハリケーン・サンディーが気候変動の脅威をアメリカ国民に印象付けた。もちろん、個々の異常気象の原因を人間活動に求めることはできないが、気候変動が異常気象の頻度を上げ、威力を強めている可能性は高い。これに加えて、中国やインドなどでは深刻化した大気汚染への対策が化石燃料の利用を削減する大きな誘因となってきている。
そして三つめは、
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