建前と本音が乖離する方向へ、社会的心理の強い力が常に働く
2017年11月20日
神戸製鋼(以下、神鋼)の製品検査で不正が発覚した(10月8日)。アルミや銅製品の検査証明書を改ざんして出荷していたという。去年子会社で不正があり、それを受けた社内調査で判明した。当初は国内4工場だけとしたが、その後他の工場や海外まで、さらに鉄鋼など他の製品にも波及した。一部の子会社製品はJIS(日本工業規格)の安全認証を取り消されていた。
顧客に約束した品質をチェックして「検査証明書」を発行するのは「品質保証室」という部署だ。しかし工場長や役員なども、不正を認識していたという証言がある。気づいても「組織体系も違うので、声を上げる空気ではなかった」(NHK「クローズアップ現代」11月9日他、各メディア)。
スバル・日産でも、車検不正が相次いで発覚している。「検査員」資格のない従業員が完成検査していた。神鋼のケースと似ている点が多い。1)暗黙の了解のもと、その手口までが代々受け継がれ、常態化していた点、2)背景に厳しい経営状況がある点(日産では検査員数が減少し、上からの生産性向上の要求があった)、3)その要求に現場が精一杯応えた結果である点、そして4)「芋づる式」に発覚し拡大した点など。
他にも車の排ガスデータ偽装や、食肉の産地偽装など、枚挙にいとまがない(本欄拙稿『日本型不祥事の心理構造 (正・続)』)。直近では「(東日本大震災で)自主避難者を集計に含めず、福島など3県分」という報道もあった(朝日、11月13日)。これだけ続くと単に制度の問題というより、日本型の文化と心理が背景にあるのでは、と疑いたくなる。
まず気がつくのは、不正の規模の大きさ・期間の長さだ。先の神鋼の例でも(「経営陣の指示はなかった」と主張しているが)前述のように不正は世界中に広がっていた。元役員・OBらの証言から、暗黙の了解が社内にあったという( 産経11月7日など)。40年以上前から慣習化していて、データの書き換えを意味する「メイキング」という隠語まであった(前出NHK番組)。このように広く長く拡散している点と、「暗黙の了解」という点がいかにも日本的だ。
裏を返せば検査や評価制度が形骸化していた。日本では「やらされている」という意識が強く、「対応が大変だ」という(本欄古井貞熙氏論考「なぜ日本の検査・評価は形骸化するのか」)。そこで以下、日本型不正の起きやすい要因を分析しよう。
まずそもそも制度的な部分でも、不正が起きやすい土壌はある。それらをまず先に挙げておこう。
1)評価される者・する者が「同じ側」であること。今回の神鋼の例では、(顧客との契約で保証した品質をチェックする)出荷前検査を、工場側の作業員だけがやっていた。スバル・日産の車体検査でも、(国の審査を経た有資格者とはいえ)社員がいわば密室で検査する制度で、そこから無資格者による検査という不正が起きた。遡れば、原発の安全性を危うくした「原発ムラ」問題なども連想する。「利害が一致し過ぎている」だけではなく「仲間意識から、異論を挟む空気でなくなる」所が問題だ。
2)利権、天下りなど、人の動きに関わる利害。(私企業の場合常には当てはまらないが)国が関与して「検査」「評価」及びそれをする「資格」を課する時には、そもそもの動機からして役人の天下り先をあっせんしたり、さまざまな利権が絡む(筆者に専門性がないのでこれ以上述べないが)。
さてもう少し心理的な面に広げて、以下の3点を加えよう。
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